2014/09/25
誌面情報 vol45
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三重県紀宝町がタイムライン導入
松尾氏は、今年1月に全国で初めて自治体としてタイムラインを導入した三重県紀宝町に、アドバイザーとして関わっている。
紀宝町は2011年9月に発生した台風12号による土石流などの豪雨災害などで、住民2人が帰らぬ人となった。
松尾氏が同町のタイムライン導入を支援するきっかけになったのが2013年の伊豆大島の土砂災害だった。タイムラインの存在を知り、国への提言などをまとめているところに大島の土砂災害が発生。松尾氏は即座に市町村向けの簡単なタイムラインをエクセルシートで作成し、災害担当者向けのメーリングリストに流した。そこに紀宝町が反応し、その年の台風27号で試行運用したところ有用性が確認され、本格的な運用に向けた検討が開始されたという。
課題抽出から計画作成
タイムライン作成に当たっては、まず2011年の台風12号襲来時に、何が課題だったか、何ができなかったかを抽出することから始まった。防災行動(何を)は事前行動だけで220項目に上った。災害は大きくなればなるほど関連する機関も人も増え、混乱を増す。タイムラインの利点は、マニュアルと違い「自分が何をしなければいけないか」を書いているだけでなく、連携している他部門や他の組織がいつ、何をしなければいけないかまでを一覧で把握することができ、計画の遅れや漏れを確認しやすい点だという。
現在、タイムラインの導入は紀宝町のほか、昨年10月に土砂災害があった伊豆大島、台風12号で土砂災害に見舞われた高知県大豊町、名古屋市、東京都の荒川下流域など各地で検討が開始されている。
タイムライン導入に当たっての問題点
日本がタイムラインを導入するに当たって考えなければいけないことは、まず米国のタイムラインはハリケーンのみの対策として作られていることだ。米国は日本のように複雑な気象上の前線がないため、ハリケーンの進路さえ予想できればある程度の被害は軽減できる。
しかし、例えば2011年の紀伊半島豪雨では台風の上陸は四国だったが、前線が影響を受けて紀伊半島で豪雨が発生したように、日本では豪雨の発生地点が予想しにくいという課題がある。また、昨年に引き続き今年も発生した福知山(京都府)の由良川の氾濫などを見ても、豪雨により堤防が決壊したために発生する外水氾濫や街なかでの内水泥濫も多いなど、日本は気象条件が複雑で災害の種類も多い。松尾氏は、日本版タイムラインは、よりきめ細やかな判断基準や地域の災害種類を考慮したものにしなければいけない指摘する。
法制度にも考慮
もう1つの大きな問題は、法の制度設計の問題だ。日本の場合は国の災害対策基本法に基づき、都道府県や市町村が地域防災計画を策定する。その中で現在クローズアップされているのは発災前の「予防」と発災後の「応急」「復旧」「復興」フェーズであるため、タイムラインが重要視する「災害直前」の行動策定に関する法的な裏付けがないという。「法律に基づいた行動でない」ため、予算がつけにくい。この問題に関して、現在はタイムラインを国交省が後押ししているので担当者もやりやすくなっているが、いずれは法整備が必要になってくるという。
事後検証報告の必要性
そして最後は、日本は自然災害に関して事後検証制度がないことだという。アメリカにはAAR(アフター・アクション・レビュー:事後検証報告)作成がほとんどの州で州法によって義務化されており、災害が発生した場合は3カ月以内に公表する義務がある。
阪神・淡路大震災は兵庫県が震災検証委員会を作ってレポートを作成したが、東日本大震災は津波避難や原発事故など、部分的な報告書はあるにせよ、全体の課題を総括したレポートは存在しない。
もともと、タイムライン自体が2011年に発生したハリケーン・アイリーンのAARの成果として開発されたものだ。本来であればタイムラインを作って運用しても、事後検証を並行し、教訓や反省点を新たにタイムラインに盛り込んでいかなければ、タイムラインの今後の成長は望むことができないとしている。タイムラインが地域をつなぐ 現在、松尾氏が取り組んでいるのは、行政主体に取り組んでいるタイムラインを、地域住民や企業まで拡大し、連携行動を取ることだ。 今年8月21日に開催した「荒川下流域を対象としたタイムライン検討委員会」には、東京都、北区、足立区などの自治体職員のほか、東京メトロ、JR、東京電力、NTT東日本などのインフラ事業者も参加して開催した。
「最終的には町内会のタイムラインも作りたい。地域で見れば、企業もあるし消防団もある。タイムラインは組織や立場を超えて、何も知らない者同士が危機感を共有し、お互いをつなぐツールになる」(松尾氏)。
BCPの手法としてのタイムライン
松尾氏は、今年3月に、経済産業省のモデル事業として、2011年に洪水被害に遭ったタイのロジャナ工業団地にある住友倉庫の子会社で物流事業を展開するRojana Distribution Center Co.,Ltd.(RDC)に対してBCPにおけるタイムラインの導入を支援している。同社は事業継続マネジメントシステムの国際規格であるISO22301認証を取得しているが、松尾氏の助言によりBCPドキュメントのなかに河川氾濫による洪水対策の初動計画としてタイムラインを導入するためだ。2011年の洪水ではチャオプラヤ川の氾濫から工業団地の浸水まで2週間のリードタイムがあったため、タイムラインの作成が有効と判断した。タイムライン作成に当たって一番大事なのはリスクアセスメントだが、それに関しては企業のBCPとして既に行っていたため、スムーズにタイムラインの作成ができたとする。
「現段階で、タイムラインがゲリラ豪雨に使えるかというと、それは難しい。しかし、トライアルする価値はある。まず台風対策の日本版を完成させた上で、他の災害にも通用するものを作りたい。そして自治体だけでなく、住民や企業も活用できるものにしていきたい。それが提唱者としての私の思いだ」と松尾氏は語る。
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