地球温暖化で超暴風化

昨年11月、フィリピンを襲った台風30号、通称スーパー台風「ハイエン(Haiyan)」。米軍合同台風警報センターは風速87m、最大瞬間風速105mを記録したと発表し、「観測史上最強の台風」と称された。フィリピン政府の公式発表によると、2014年1月までの集計で死者6201人、負傷者2万8626人、行方不明者1785人、被災者数は1600万人以上、家屋倒壊・被害114万棟以上、被害総額は366億ペソ(約854億円)以上に達した。スーパー台風の襲来は決して「遠くの南の島の出来事」ではない。名古屋大や気象庁気象研究所などの研究グループが2009年に発表した報告によると、2074年~2087年には日本の南の西太平洋で海面水温が2度程度高くなり、風速67m以上の「スーパー台風」が複数回発生する恐れがある。最大のものは中心気圧が866ヘクトパスカル、地上の最大風速は80mに達するという。

スーパー台風とは、米軍合同台風警報センターが台風の強さの分類に利用している「Super Typhoon」という表現の直訳だ。これは中心付近の最大風速が130ノット(=67m)を越えるような非常に強い台風を指す言葉で、単純に日本基準に当てはめると、最大風速60m以上の台風に相当することになる。 

また、台風の大きさは通常、風速15m以上の地域が、半径500km~800kmのものを大型、800km以上を超大型台風と呼ぶが、スーパー台風の場合はそれより小さい400km程度の場合が多いようだ。 

台風とは、赤道付近の暖かい海水が蒸発し、発達した積乱雲の集合体となり、やがて回転運動を始めて強い雨や風を伴って移動する熱帯低気圧のことだ。熱帯低気圧の中心付近では強い風が吹いていて、これが風速17.2mを超えると「台風」に名称が変わる。台風が発達し、風速が44mを超えると「非常に強い台風」、54mを超えると「猛烈な台風」と呼ばれている。 

一般的に台風が発生するには海面水温が28℃以上あることが条件と言われているが、現在は地球温暖化が西太平洋の気候パターンに影響を及ぼし、このままいくと2080年に海水温度が2℃上昇する調査結果もある。海水温がわずかでも上昇すると、台風に供給されるエネルギーは飛躍的に増大するため、風速が加速することが予想される。


風害だけで都市は壊滅状態


2005年に米国ニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナは最大風速78mだったが、小石1つで住宅や店の窓が粉々に割れるなど、風害だけでも甚大な被害があった。中央防災会議は2010年4月、室戸台風(1934年)級の超大型台風による高潮が東京湾を襲った場合、死者は最大7600人出るとする報告書を公表したが、その室戸台風級でも最大風速は60m。通常、風速が70mを超えると車が横転し、木造家屋は倒壊の恐れが出てくると言われるが、80mでは高層ビルの窓ガラスが割れる可能性も否定できない。スーパー台風が日本を襲えば、その風の威力だけでマンションや高層ビルの窓は砕け落ち、小石や看板など町中のあらゆるものが凶器となって人々を襲う可能性がある。 



また、非常に風速の速い台風では、それを起因として竜巻が発生する可能性もあるようだ。 

もちろん豪雨や高潮の被害も甚大だ。一般的に台風の中心部は気圧が低く、気圧が1ヘクトパスカル下がると海面が1cm上昇する。台風による「吸い上げ効果」と呼ばれるもので、さらに台風の東側では南風が強く、海水を陸地に運ぶ。これが「吹き寄せ効果」で、高潮発生の原因となる。大潮などが重なると、さらに高潮の発生率が高まる。 
「ハイエン」は台風発生時の中心気圧は1002ヘクトパスカルだったが、24時間で40ヘクトパスカル下がり、さらに次の24時間で65ヘクトパスカル低下して905ヘクトパスカルに。最終的に895ヘクトパスカルに達した。この急激な気圧の変化がさらに風速を加速させ、暴風雨と高潮がフィリピンを襲ったのだ。 

スーパー台風が都心を襲えば、利根川、荒川の決壊や、想定以上の高潮により東京中に張り巡らされた地下街が水没する恐れもある。地下には電気・ガスなどのライフラインが走る共同溝がある。東京23区では、電線のおよそ半分が地中化されている。ここが浸水して機能停止した場合、ライフラインの復旧に半年以上かかると言われている。 

首都直下地震に勝るとも劣らないスーパー台風への襲来には、今の段階から国を挙げての対策が求められる。