■隣人のアイスクリームは溶けても気にならない?
私たちは、非常にゆっくりとしたスピードで進展する危機に対しては、その重大さを察知できないことが多いものです。
気候変動の作用で起こる自然災害の場合、台風や豪雨は急激かつその発生件数も目に見えて増えているため、この数年で警戒意識や危機感は次第に高まってきています。熱波についても、これまでの猛暑や酷暑は「たまたま」の出来事と捉える人が多かったようですが、ここにきて全国規模で35℃~40℃の猛暑日が連日記録されるようになって以来「どうも普通の暑さとは違うぞ」「暑さのレベルを超えている」という警戒感を、うすうす感じはじめている人も少なくないでしょう。
しかし、依然として我々が密かに忍び寄る危機に気づいていない別の気候変動リスクもあります。その一つが「海面上昇」のリスクです。
北極やグリーンランドの氷や氷床が記録的なスピードで溶けている。南海の島国の中には年々海面上昇がもたらす海岸の浸食によって、数年おきに住居を陸地の奥へ奥へと移転せざるを得ない人々がいる。あるいは気候難民となって自国を捨てざるを得ない人々がいる。
こうした話はおそらく誰でも見聞きしているでしょうが、日本に住む私たちの多くは、これらは別世界の出来事と考えており、すぐに記憶から消えていきます。しかし、(後で述べるように)その認識を一変させるような災害が起こるのは時間の問題と見てよいでしょう。
ここではまず、「海面上昇」のリスクが実際どのように捉えられているのかを、米国の海洋大気局(NOAA)に掲載のハイライト※を参考にまとめてみましょう。
※https://www.climate.gov/news-features/understanding-climate/climate-change-global-sea-level
衛星で観測された地球全体の平均海面水位は、1993年から2018年までの間に81ミリ上昇しており、2018年は年平均では過去最高の値となりました。そして、海面水位は加速的に上昇しています。20世紀全体を通しての年平均の上昇幅は1.4ミリでしたが、2006年~2015年までの間だけで3.6ミリも上昇。アメリカでは、多くの海岸線で高潮による洪水(High-tide flooding)の発生頻度が、50年前に比べて300% から900%以上にまで増加しています。
世界各国が、たとえ温室効果ガスの排出を低く抑えたとしても、地球全体の海面上昇幅は、2000年~2100年までに30センチ高くなる可能性が高いとされます。仮に、これまで通りに温室効果ガスを排出し続けると、最悪の場合、2000年~2100年までに海面が2.5メートル上昇する可能性も排除できません。
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