クラウドにより維持費軽減も 
システムは、日本IBMに依頼して開発した。市民への情報提供に加え、職員の安否確認、参集情報、さらには被災状況や災害対応に関する情報までクラウド上で一元的に収集・管理できるというもの。組織内、組織間の情報共有や災害対応にかかわる迅速な意思決定を支援する。  

クラウド環境を利用している理由は大きく2つ。1つは、システムベンダーが独自にサーバーを管理するため、運用側の維持・メンテが容易になるということ。アプリケーションの更新などがあっても、市側にはほとんど負荷がかからない。システム保守の専門要員が不要となりコストの削減にもつながる。ちなみに、クラウドの利用料は、災害発生時のみ課金となる従量課金制にしているため負担も少なくて済む。  

もう1つは、サーバーを置く庁舎などの施設そのものが被災した場合でもインターネット環境が生きていれば、どこでも立ち上げることができるという運用の確実性だ。東日本大震災では多くの沿岸部の自治体がサーバーの被災により、住民情報すら把握できない状況に陥った。同システムは自治体の所在地から離れたクラウドセンターで管理されているため地震などにより庁舎とともに同時被災する確率は極めて少ない。 

新しいシステムの導入費用は8800万円。総務省の補助金を活用した。平時には最低限のシステムだけを稼働させ、災害時には1時間単位でサーバーを使った分だけ費用が発生する仕組みのため、運用コストも抑えられているという。

災害対応状況を見える化 
被災時には、担当職員が被災状況を直接、写真や文字情報で報告する。その内容はGIS(地理情報システム)上に落とし込まれ、災害対策本部や関係機関は、どこで何が起きているかを即座に把握することができる。一方、災害対策本部などの指示も案件ごとに表示され、遠隔地にいる職員や関連機関は、災害対策本部の意思決定などを常に把握することができる。 

報告した情報は時系列で管理されるため、内容の誤りなど修正があれば、どの時点で、何が修正されたかを確認することもでき、時間の経過とともに、災害対応に役立つ信用性の高い情報が集約されていく仕組み。集まった情報を加工、分析し、報告書を作成する機能もあるため、災害対策本部会議などの運営も効率的になることが期待される。

救援物資の管理が迅速化 
救援物資に関する情報を管理し、必要な救援物資を必要な場所に確実に届けられるようにする「救援物資情報管理機能」も装備した。 

東日本大震災では、盛岡市は三陸沿岸部への救援物資配送の中継地点として重要な役割を果たしたが、その管理には多大な労力がかかった。 

救援物資の窓口になるのは岩手県だが、個人から市や避難所に直接送られる物資もあった。また、メディア等を通じた情報から、同じ種類の物資が供給過多になることもあり、中継拠点であった盛岡市でも大きな混乱が生じた。 

新しいシステムは、平時に避難所などで保管されている備蓄品の管理をシステム上で行うことができ、GIS上でも避難所情報などとともに見ることができる。 

被災時には避難所にいる職員が状況を報告することで不足物資を適切に割り振ることができるという。全国から届く救援物資についても、どこに配分したかをシステム上で管理することが可能だ。

台風、大雨に対応 
昨年4月にシステムが本格稼働した直後、8月9日と9月16日の2度に渡り盛岡市を深刻な水害が襲った。まず8月9日から10日にかけて雨量125ミリの大雨が発生。山間部の傾斜地を流れる小河川が氾濫し、土砂災害を引き起こしたほか、北上川の水位が上昇し危険な状態になったため、約3000人に対して避難勧告が発令された。土砂などにより住宅全壊が5棟、床下浸水まで含めると約200の家屋が被害に遭い、3人が重傷、3人が軽傷を負った(岩手県内では死者2人)。市では11カ所に避難所を開設し、160人余りが避難した。

9月16日には台風18号により、9月の同市内観測史上としては最大になる1時間あたりの降水量42㎜を記録し、北上川の支流にあたる松川が氾濫した。人的被害はなかったものの、家屋約100棟が浸水などの被害にあい、市内11カ所に避難所を開設。170人が避難した。 



「両方とも、盛岡市ではこれまで記憶にないくらいの大水害。正直なところ、東日本大震災と比べものにならないほど多くの被害情報と問い合わせがあった」(上平氏)。 

この時に活躍したのが、新しいシステムに組み込まれていた職員の安否確認と職員参集システム。庁内約2000人の職員のほとんどと連絡を取ることができ、迅速に災害対応にあたることができたという。また、当初の狙い通り緊急速報メールや、コミュニティFMでの緊急放送も配信され、市民に対しての情報提供は遅滞なく行われたという。 

一方で、課題として残ったのは災害情報の入力だ。現在のシステムでは、タブレット端末からの入力も可能だが、市ではタブレット端末が未配備のため、災害の位置情報を自動的に入力することができなかった。そのため職員のパソコン端末から一つ一つ住所を入力しながら登録していく手間が生じた。災害のピーク時には数100件の問い合わせが市役所に殺到し、情報入力を一時停止したという。また、避難所情報も一人ひとり性別、名前、住所を登録していったため、専任の職員がいなければ対応ができないことが明らかになった。タブレット端末の整備と、入力情報の簡素化は、今後の課題として解決していきたいとしている。