阪神淡路大震災により避難所になった学校体育館の内部 (出典:阪神・淡路大震災「1.17の記録」(C)神戸市)

東京都に居住したり、働いたりするうえでまず押さえておきたい数字がある。東京都の人口は2017年10月現在で1374万人。平日の昼間であれば、近隣県から働きに来る人も多いため、東京都の昼間人口は1557万人(2010年内閣府発表数字)にまで膨れ上がる。

■東京都の統計 東京都の人口推計(東京都ホームページ)
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/jsuikei/js-index.htm

■国勢調査による東京都の昼間人口(東京都ホームページ)
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/tyukanj/tj-index.htm

それに対し、東京都に設置される避難所の数や収容人数はご存じだろうか。東京都のホームページによると、避難所設置数は都内で2780カ所、収容人数はおよそ362万人とある。

■東京都地域防災計画 第10章 「避難者対策」(東京都)
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/259/h24-soan2-10.pdf

この数字が多いか少ないかの是非は別の場所で述べるとして、現時点では首都直下地震などの大災害が発生した場合、都内で1000万人以上は避難所にすら行くことができないのだ。

また、東日本大震災の時を思い出してほしいが、日本の避難所では1人当たりに割り振られる面積も非常に狭く、「本当に東京都が想定する避難場所にそれだけの人数が収容された場合、座ることもできないのではないか」と指摘する専門家もいる。

少し乱暴な計算にはなるが、326万人の避難者を単純に2700カ所で割ってみると、1カ所につき1200人を収容する計算になる。もちろん避難所の大小はあるだろうが、1000人収容クラスの避難所は相当大規模なものと想像できるだろう。熊本地震時の新聞記事では、以下のような記述が見える。

災害時に1000人を受け入れる避難所として想定されていた益城町保健福祉センター。施設内は避難者であふれかえり、軒下や駐車場に止めた車内で夜を過ごす人も多い。町は「間違いなく1000人は超えている」と頭を抱える。

■熊本地震 無情の雨、避難所の定員超えも
(2016年4月16日付毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20160417/k00/00m/040/135000c

「従業員とその家族を避難所に行かせないこと」が重要

防災の講演に来られた会社員や主婦の方に、「震災が発生したら、どうしますか?」と聞いてみると、「避難所に行く」と答えられる方はいまだに多い。これは阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震などの報道を見て「地震が発生したら避難所が作られ、そこで生活すればよい」と考える、いわゆる「震災=避難所」の文化が市民に膾炙(かいしゃ)しているためと思われる。

しかし繰り返して言うが、東京都内でどれだけ大きな被害が発生しても、都内で1000万人以上の人に行き場所はないのだ。この現実を踏まえつつ、私たちは防災対策を練らなければいけないということを、肝に銘じておかなければいけない。そのために企業がしなければいけないことは、「従業員や家族を避難所に行かせないこと」だ。

もちろん、今回はあくまで「東京」を例にとって考えてみたが、名古屋・大阪などの大都市でも状況は似ているだろう。東京の例を他山の石と考え、自分の住んでいる地域の防災計画をしっかり読み込んでほしい。

さて、ここでもう一度「オフィスの防災」を考えてみよう。大地震が発生した場合、重要なのは「従業員を避難所に行かせない」ことだ。そのため、地震発生の時間が就業時間中であればまず従業員はオフィスにとどまり、そこで3日程度を過ごすための飲料水や食料などを備蓄するほか、停電に備えて照明器具や自家発電機などの導入が勧められている。

■災害が起きる前に(会社・職場編)(東京都ホームページ)
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/kitaku_portal/1000048/1000539.html

しかし、「避難所に行かない」ために本当に重要なのは、まず従業員の防災意識を高め、従業員自らが「まずは自分の家庭を守る」ための手段を日ごろから練っておくことではないだろうか。もし従業員1人ひとりの防災意識が高まり、家庭でも災害に対して充分に備えることができれば、災害発生直後の「不安な3日間」を「従業員一丸となって業務を再開するための3日間」に充てることができるのではないだろうか。

また、従業員一人ひとりが日ごろから「会社から家までの帰り道や危険カ所を把握する」、「言われなくても自発的に個人の備蓄を備える」といった行動ができていれば、結果的に企業のさまざまな負担も減るのではないだろうか。

「守りのBCPから攻めのBCP」へ発想を変えるため何をしたらいいか。特集を通じて考えていきたい。

(了)

リスク対策.com 大越 聡