2017/10/30
オフィスの防災対策を見直せ!

東京都に居住したり、働いたりするうえでまず押さえておきたい数字がある。東京都の人口は2017年10月現在で1374万人。平日の昼間であれば、近隣県から働きに来る人も多いため、東京都の昼間人口は1557万人(2010年内閣府発表数字)にまで膨れ上がる。
■東京都の統計 東京都の人口推計(東京都ホームページ)
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/jsuikei/js-index.htm
■国勢調査による東京都の昼間人口(東京都ホームページ)
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/tyukanj/tj-index.htm
それに対し、東京都に設置される避難所の数や収容人数はご存じだろうか。東京都のホームページによると、避難所設置数は都内で2780カ所、収容人数はおよそ362万人とある。
■東京都地域防災計画 第10章 「避難者対策」(東京都)
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/259/h24-soan2-10.pdf
この数字が多いか少ないかの是非は別の場所で述べるとして、現時点では首都直下地震などの大災害が発生した場合、都内で1000万人以上は避難所にすら行くことができないのだ。
また、東日本大震災の時を思い出してほしいが、日本の避難所では1人当たりに割り振られる面積も非常に狭く、「本当に東京都が想定する避難場所にそれだけの人数が収容された場合、座ることもできないのではないか」と指摘する専門家もいる。
少し乱暴な計算にはなるが、326万人の避難者を単純に2700カ所で割ってみると、1カ所につき1200人を収容する計算になる。もちろん避難所の大小はあるだろうが、1000人収容クラスの避難所は相当大規模なものと想像できるだろう。熊本地震時の新聞記事では、以下のような記述が見える。
■熊本地震 無情の雨、避難所の定員超えも
(2016年4月16日付毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20160417/k00/00m/040/135000c
「従業員とその家族を避難所に行かせないこと」が重要
防災の講演に来られた会社員や主婦の方に、「震災が発生したら、どうしますか?」と聞いてみると、「避難所に行く」と答えられる方はいまだに多い。これは阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震などの報道を見て「地震が発生したら避難所が作られ、そこで生活すればよい」と考える、いわゆる「震災=避難所」の文化が市民に膾炙(かいしゃ)しているためと思われる。
しかし繰り返して言うが、東京都内でどれだけ大きな被害が発生しても、都内で1000万人以上の人に行き場所はないのだ。この現実を踏まえつつ、私たちは防災対策を練らなければいけないということを、肝に銘じておかなければいけない。そのために企業がしなければいけないことは、「従業員や家族を避難所に行かせないこと」だ。
もちろん、今回はあくまで「東京」を例にとって考えてみたが、名古屋・大阪などの大都市でも状況は似ているだろう。東京の例を他山の石と考え、自分の住んでいる地域の防災計画をしっかり読み込んでほしい。
さて、ここでもう一度「オフィスの防災」を考えてみよう。大地震が発生した場合、重要なのは「従業員を避難所に行かせない」ことだ。そのため、地震発生の時間が就業時間中であればまず従業員はオフィスにとどまり、そこで3日程度を過ごすための飲料水や食料などを備蓄するほか、停電に備えて照明器具や自家発電機などの導入が勧められている。
■災害が起きる前に(会社・職場編)(東京都ホームページ)
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/kitaku_portal/1000048/1000539.html
しかし、「避難所に行かない」ために本当に重要なのは、まず従業員の防災意識を高め、従業員自らが「まずは自分の家庭を守る」ための手段を日ごろから練っておくことではないだろうか。もし従業員1人ひとりの防災意識が高まり、家庭でも災害に対して充分に備えることができれば、災害発生直後の「不安な3日間」を「従業員一丸となって業務を再開するための3日間」に充てることができるのではないだろうか。
また、従業員一人ひとりが日ごろから「会社から家までの帰り道や危険カ所を把握する」、「言われなくても自発的に個人の備蓄を備える」といった行動ができていれば、結果的に企業のさまざまな負担も減るのではないだろうか。
「守りのBCPから攻めのBCP」へ発想を変えるため何をしたらいいか。特集を通じて考えていきたい。
(了)
リスク対策.com 大越 聡
オフィスの防災対策を見直せ!の他の記事
おすすめ記事
-
DXを加速するには正しいブレーキが必要だ
2月1日~3月18日は「サイバーセキュリティ月間」。ここでは、企業に押し寄せているデジタルトランスフォーメーション(DX)の波から、セキュリティーのトレンドを考えます。DX 時代のセキュリティーには何が求められるのか、組織はどう対応していくべきか。マクニカ ネットワークスカンパニー バイスプレジデントの星野喬氏に聞きました。
2025/03/09
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/04
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方