2020/08/26
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
住み慣れた地域に住み続けたい
次に岡山県倉敷市真備町のぶどうの家の事例を紹介いたします。ぶどうの家の紹介は、こちらの記事にも書きました。
高齢者にWeb会議が無理って思い込まないで!
https://www.risktaisaku.com/articles/-/31104
新型コロナの影響で、講演がいきなり1週間前にオンラインに変更になったにもかかわらず素早く対応されたのが、ぶどうの家です。地域には高齢者の方も多かったのに、どうしてそんなことが可能だったのかを記事にしたのですが、一言でいえば、日ごろから地域の方とつながる力が強いからだと思っています。
平成30年7月豪雨の被災地である岡山県倉敷真備町では、命を落とした42人のうち36人が65歳以上の高齢者。さらに、8割の方が自宅の1階で命を落としていました。その時、2階に逃げることができていれば助かっていたと思われる地域です。

ぶどうの家は、小規模多機能ホームといわれる施設です。被災当時は27人の登録利用者がいらっしゃいました。認知症の方が多く、また車椅子を使用しているような体の不自由な方もおられました。サービス形態は小規模多機能型居宅介護という介護保険の事業所で施設に通ったり自宅に訪問したり、時には施設に泊まることもできるものです。そして、施設を使用されている方の人的被害はなかったものの、民家風の平屋の施設は天井まで水に漬かりました。
そうなると、高台移転という発想になりがちですが、代表の津田由起子氏にお話を伺うと、建物を再建するに当たって重視したのは、お年寄りたちが住み慣れた家・地域で暮らせるようにすることです。
「それまでの人間関係を築いてきた高齢者が、人と人とのつながりを最も必要とするようになってから、地域と引き離されるということは、あってはならないと思っています」と津田氏はおっしゃいます。災害時も重要なのが地域の人とのつながりです。つながりがあるから、地域の人に支えられて避難できるという思いから、次の被災を考え、対策としてあみだされたのがスロープ付き住宅です。

写真の住宅は、元は、被災した賃貸住宅です。被災後、利用されないままになっていたので再利用できないものかと大家さんからお声がけがあったそうです。ただ通常の賃貸住宅仕様ですから、お年寄りに優しい施設ではありません。水害時の避難も心配です。そこで、車椅子でも利用できるようにスロープを後づけで設置しました。この角度は「10分の1勾配」と呼ばれるもので、10メートル進むごとに1メートル高さが上がる仕様です。
10分の1勾配は建築用語なので、知る人ぞ知る言葉なんですが、皆さんはご存じでしたか? 例えば、12分の1勾配になるとスロープの上りは緩やかになるのですが、その分、距離が延びるのです。避難するのに適した長さと高さを検討して、この勾配を選ばれたそうです。
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方