環境政策対応の鈍さが招く事業継続の危機その3
中国政府の真剣度を見誤らず早めに手を打つ
上海清環環保科技有限公司(STECO)/
総経理
江頭 利将
江頭 利将
1965年7月 佐賀県生まれ。早稲田大学理工学部電気工学科卒。海外生活・事業経験27年(米国1.5年、韓国3年、アルゼンチン6年、中国16年)。2003年より中国事業に取り組み、2008年より上海清環環保科技有限公司(STECO)総経理就任。同済国際緑色産業創新センター(TIGIIC)運営幹事、日資企業節能環保推進研究会(JASPEE)運営幹事、上海佐賀県人会副会長、上海稲門会幹事長を務め、日本の優れた環境・省エネの世界標準化を目指すと同時に、海外進出済みの日系企業現地事業所の環境・省エネ対策サポートに取り組んでいる。机上の空論ではない実業経験を活かした実践的サポートが好評。
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中国に進出した日系企業に日々起きている事象を参考にして、どのように環境対策を成功させるべきかを考察している本連載。ここ3回ほどは中国の法制度について解説しましたが、今回はまた具体事例をあげながら皆さんと共に考えていきたいと思います。
■事例1
現地スタッフが嘆く「環境に関心の低い総経理」
この工場は、2004年に設立された日系独資企業です。北は瀋陽から南は広州まで、幅広く展開をしている自動車関連パーツを製造する企業です。
当社は他社の総経理の紹介により、この工場の環境現場診断を行うことになりました。工場を訪ね、工場内を巡回し、環境現場診断のための調査を行いました。この企業は2019年暮れに環境に関する行政処罰を受けており、それ以降行政当局に目を付けられているためか、担当者はかなりビクビクしている様子でした。
診断の結果、予想通り数多くの問題が発生していました。しかしその後、年始より発生したCOVID-19の影響で、報告会(当社スタッフが訪問し報告書を詳細に説明するサービス)をしばらく開けませんでした。ようやく先月、お伺いして説明できたところです。
説明会には、総経理と環境担当のスタッフ2名、通訳1名の計4名が参加され、説明言語は中国語でと指定されました。パスワードで管理された報告書は、事前に当社より電子メールで送信済みでした。説明会まで十分な時間があったため、担当のスタッフは現状についてよく認識はされていました。
当社の説明が終わった後の感触としては、総経理が比較的年齢も若く、まだ赴任1年程度ということもあるのでしょうか、昨年処罰を受けている割には責任者の認識が乏しく焦りが感じられない気がしました。当社が提出した報告書に問題点は指摘済みであり、本来ならば、早急に対応策を練っておいてもよいのではいかと思っていたのです。
ところが報告会の後、環境担当スタッフに状況を伺ってみると、2名とも即席に任命されたスタッフだったようで、本来は違う部署のスタッフでありながらの「兼任」だったことが発覚。従って、彼らが環境に関する知識が乏しく、あらかじめ対応策を考えることが難しかったのは無理もない状況でした。
しかしながら、現地の中国人であるためか、自社の環境上の問題点については今回の報告書で十分に理解していて、事の重大さも分かっているようでした。それゆえ、彼らとしては引き続き当社のサポートを希望し、年間コンサルティングサービスが必要だと言ってくれていました。しかし総経理としては、環境対策は優先事項ではないのでしょうか、今日までご回答はいただいていません。
このままの状態を続けた場合、再び環境局の査察によって処罰を受けてしまうであろうことは間違いないと思われます。
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