2013/07/25
事例から学ぶ
複数の安否確認方法で乗り切る
安否確認システムは、地震速報と連動したメールの一斉配信やデータの自動集計など多くの便利な機能を備える半面、災害発生直後の通信集中によるメール着信通知の遅延や社員の連絡先登録における個人情報保護の問題、さらには導入コストの課題などもある。こうした背景から、安否確認システムに頼らずに、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)や電話連絡網、衛星携帯電話など複数の連絡ツールを使って安否確認を行う企業も多い。
災害時に有効なSNS
東日本大震災では、通信の集中により、多くの安否確認システムでそのメールが遅延する事態が生じた。一方で、多くの企業でツイッターやフェイスブックなどSNSが活発に活用され、災害時における連絡手段として、ソーシャル・メディアの有効性が実証された。また、通信各社などが臨時に開設した「災害伝言版」「消息情報や掲示板」のような公共サービスの利用や衛星携帯電話、PHSなども災害時の安否確認の連絡手段として改めて注目された。
総合物流業の川崎陸送は、安否確認ツールとしてSNSを活用している企業の1つ。川崎陸送では2011年3月11日の東日本大震災の発災直後、通信の輻輳により携帯電話での連絡がつながりにくかったことから、社長を筆頭に管理職者や各部署のリーダーがツイッターに登録。部署や役割ごとにグルーピングして安否確認だけでなく、会社からの指示・連絡のコミュニケーション・ツールとしてもツイッターを利用した。
会社からの催促は待たない
一般的な安否確認システムは、導入の際に各社員の個人携帯電話メールや電話番号、住所などの事前登録が必要となり、社員の人数が多いほど、社員の個人情報保護への配慮や、社員の入れ替わり、メールアドレスの変更による登録情報の更新など、社員全員の登録情報の管理が難しく、データ管理に手間を要する。
こうした背景を踏まえ、全国にグループ会社を持ち、社員数が10万人を超えるような大規模な安否確認を必要とする企業には、会社側から安否の催促を行わず、社員側から能動的に会社のサーバーに安否の通知をする仕組みを採用している企業もある。
グループ会社を含め、14万人に及ぶ社員を抱えるヤマト運輸では、社員から所属する各支店の人事担当者など会社側への連絡する体制を整えている。安否確認システムを利用しない代わりに、災害発生時の行動指針や安否の連絡先を記載した災害ポケットカードを、グループ会社を含めたすべての社員に配布している。
3つ折り式で、財布に入る大きさにまとめられた災害ポケットカードには、災害対応に関する情報だけでなく、日常業務における事故や事件が発生した際の社内通報先や社員のメンタルヘルスの相談窓口など、CSRの観点からの情報も掲載している。数十年に1回発生するかしないかの地震の対応策に限定したカードでは、使用頻度が下がり、カードを紛失したり、携帯の浸透率が下がることが考えられることから、日常からも使える幅広い情報を掲載することで、社員がカードを必ず持ち歩くように工夫している。
カードの安否情報には、それぞれ社員が所属する勤務地の各主管支店の人事担当者のメールアドレスが記載されている。このメールアドレスに社員のIDナンバー、名前、家族の安否、翌日の出勤予定などを送るように決めている。
連絡手段の多様化
ヤマト運輸と同様に、グループ会社を含む安否確認を行うNECでも、社員から会社へ携帯電話メールなどを使って、一方通行で安否を連絡する方法を採用している。その際、NECではあらかじめ、各社員の携帯電話の保存ボックスの中に安否確認メールのテンプレートを入れるように推進している。社員からの一方通行の安否確認ができれば、安否確認のためにアクセスが集中する「非被災地」「被災地」からへの連絡を省けられるためメールの遅延を大幅に解消できるメリットがある。NECのように、返信メールのテンプレートを保存しておくことで、より迅速な安否データの収集が可能となる。
食品・製造販売業のカゴメでも、社員から自発的に会社側に連絡を通知する仕組みを採用している。東日本大震災を契機に昨年、カゴメが独自開発した安否確認システム「KAGOME災害掲示板」では、自社サーバーに設けられたWEBに掲示するのに、携帯電話メールやPCメールだけでなく、SNSのツイッター、スマートフォンなど、さまざまな連絡手段を使ってアクセスし、安否情報を登録できるようにすることで被災状況下でも安否の連絡ができるよう工夫している。
こうした自発的な安否確認を実現するためにこれらの企業では、地震を想定した定期的な安否確認の訓練により、社員への意識づけに取り組んでいる。
当事者意識を高める
各グループ会社や部門ごとに適した安否確認方法に委ねる企業もある。
TOTOでは、部門やグループ支社、工場、事業部単位で安否確認を行い、全社で方法を1つに限定していない。安否確認の上で決められていることは、災害時に必ず連絡できるように、連絡手段を複数化することと年に1回部門ごとにその方法が機能するかをチェックすることの2つのみ。この2つを守れば、どんな方法で社員の安否を確認するかは、部門ごとの自由だ。
そのため、携帯電話メールによる安否確認システムを活用している部門もあれば、SNSを利用する部門、ツリー式の電話連絡網を用意している部門などもある。同社のリスク部門を担う総務担当者によれば、部門ごとに管理をすることで、部門長の責任感が高まり、結果リスク管理の意識も上がるのだという。
TOTOでは、日常の業務において、部門長が有事に備えて常に社員の緊急連絡先を確保するように徹底している。災害時における安否確認として特別に捉えるのではなく、普段の社員管理の一貫として認識している。グループ全体の安否確認を統括する本社総務だけが、安否確認の仕組みを考え、全社にその方法を投げるのではなく、全社が当事者意識になることが大切だとしている。
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- BCP 安否確認
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