住民の意識は高まっている

下川さんは「予想以上に多くの住民が避難された」と振り返ります。台風19号の際、避難勧告を区内全域に発令すると、多くの区民が避難しました。

下川さんによると、以前に勧告を出したときは、3~4カ所の避難所を開設し、実際に避難した人はそれぞれ10~20人。これに対し昨年は予想外に多くの人が避難したため、避難所が混乱してしまいました。

区民が正しい行動をとったにも関わらず、混乱が起きてしまうのは問題です。会田さんと下川さんは現状を真摯に受け止め「早急に解決策を練らなければならない」と考えました。

「避難したのは比較的若い方が多く、高齢者の方ほど避難されていませんでした」と下川さん。この原因は情報源にあるといいます。SNSなどで情報を取り入れる若い世代は、他地域の情報も取得し、避難行動を積極的にとったのですが、防災無線の音が届かなかったお年寄りの方は家にとどまってしまったのです。

情報の問題に関しては、現在「情報発信部会」が検討しています。防災無線の聞き返しができる電話回線の回線数を増やしたり、SNSの活用を強化したりといった対応が検討されていますが、一番はご近所同士の「お声がけ」ではないでしょうか。

隣近所の声がけが重要

地域の声がけを促進するために必要となるコミュニティタイムラインを作成する部会も立ち上がっています。

コミュニティタイムラインは「地域の協議会運営」「地域特性の分析」「地域課題の抽出」「避難先の検討」など、水害が発生するまでに時系列で何をすべきかをまとめたもの。区内では、長門南部町会ですでに整備が行われています(次回、インタビュー内容を掲載予定)。

東京都ではマイ・タイムラインの作成が促進されていますが、地域全体で計画を立てると、自分たちだけで乗り越えるべきなのか、地域で助け合えることなのか、整理ができそうです。
参考:東京都防災ホームページ

具体的な計画を立てて地域内の連携が高まることで「お声がけ」の体制も整っていきそうですね。

体制整備からの実践

計画を立ててから実践に移すことができるかどうかが、防災の難しいところです。「職員一人一人に、自分たちが動かないといけないということを伝えたい」と、会田さんは力強く語ります。自身も「誰かがやってくれる」と思っていたからこそ、このギャップを埋める必要性を痛感しているのです。

課題が見えてからの素早い対策立案で、体制が整ってきた足立区。住民の意識向上もはっきりと見えるなか、フェーズは計画を「伝えていく」ことに移ってきました。今後は「実行する人が理解し、身体に染み付くまで訓練をする」「訓練をする際、実践をイメージする」というところがポイントとなりそうです。難しいですが、繰り返しあるのみです。

会田さん(右)と下川さん。前向きに計画立案を推進されています