課題は「モノ」の対策代替物流の検討も

インターリスク総研 コンサルティング第二部BCM第二グループコンサルタント 永井直樹氏

富士山が噴火した場合、被害は火山周辺地域に留まらず、東京や神奈川など広い範囲に降灰などの影響が及ぶといわれている。近年発生したアイスランドの噴火では、物流やサプライチェーンが一時的に途絶するなどの被害が見られた。富士山の噴火が懸念される中、BCPの観点からどのように噴火対策を考えればいいのか。インターリスク総研の永井直樹コンサルタントに対策のポイントを聞いた。

企業・自治体も具体策はない状況 
日本国内の活火山についてはハザードマップの整備が進んでおり、火山近辺の自治体では、避難計画などの策定を進めている。ただし、降灰など広域に影響が及ぶ事象については具体的な対策まで踏み込めていない。 一方、企業についても、富士山周辺の一部の企業で、噴火の予兆があった際の避難方法や代替拠点の把握など、初動対応を中心に簡単なルールを定めている程度で、BCPの観点から噴火対策を整理している企業はほとんどないのが現状だ。

長期間にわたる被害想定 
富士山の噴火に備えたBCPを策定する上で、大まかに、火山周辺の溶岩流や火砕流が及ぶ地域と火山灰が及ぶ地域の2つに分けて考える必要がある。それをまとめると、図1〜3のようになる。

噴火による最も大きな影響の1つは、溶岩流などの被害にあった地域の拠点が長期にわたって利用できないことだ。例えば、2000年に起きた三宅島の噴火では、全島避難が2005年まで解除されず、年以上経過した現10在でも島の一部では、立ち入り禁止区域が設定されている。 富士山防災マップによれば、富士山が噴火した場合に立ち退く必要が生ずる可能性のある地域は、山頂から半径30キロ圏内とされている。これらの地域の企業では、本社機能と生産拠点の代替手段について事前に考えておく必要がある。 

経営資源の観点から考えてみると、ヒトとシステム、いわゆるホワイトカラーの社員しかいないような拠点であれば、本社機能を代替オフィスに移転することはそれほど難しくないだろう。その際、人数を把握して代替オフィスのスペースを確認することが求められる。長時間帰れなくなるため、業務上必要な書類などの持ち出しルールも明確化しておいた方がいい。システムについては、本社にサーバーがある場合は、外部移転をするか、代替オフィスでの専用PC端末を確保する必要などがある。各個人にあらかじめシンクライアントのPCを配布し、どこからでもサーバーにアクセスできる環境を整備することもできる。

問題は、(設備)工場など生モノで、産拠点が火山周辺地域にある場合だ。これは、東日本大震災での福島第一原発事故周辺の企業の課題とも重なり、解決が難しい。事前対策としては、BCPの観点と事業戦略の観点の両面から生産拠点の移転を検討することが挙げられる。そのほかの対策として、複数の工場で同じ設備を整えておく方法もあるが、多額のコストを要することとなり現実的には難しいだろう。

遠距離地域は火山灰への対応 
富士山が噴火した場合に想定される降灰の範囲を示した「富士山防災マップ」によると、火山灰は、富士山から100キロ以上離れた千葉県房総半島まで降灰することが想定されている。また、実際の研究データ※として、富士山が噴火した場合に首都圏にどういった被害が出るのか、調査結果がある。 これらを踏まえ、火山灰が企業に与える主な影響として「航空貨物の停止・遅延」が考えられる。実際に、2010年4月に発生したアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火の際には、火山灰の影響により、ヨーロッパの広い範囲で1週間以上にわたり航空規制や空港閉鎖が行われ、物流が一時的に混乱したことで、欧州の自動車メーカーで、部品不足が生じるなどの事態が発生した。 航空貨物を物流で利用している企業では、火山灰の影響で成田空港や羽田空港を離発着する空港貨物が一定期間、利用できないことを想定した代替物流手段の検討が必要となる。

噴火BCPのまとめ 
まとめると、噴火の影響は長期間になることが想定され、それに対して、代替拠点の準備や事業所移転など、経営戦略に大きく関わる問題となることが分かる。 噴火のBCPを考えるにあたって、自社の被災する場合に加えて、サプライヤーが被災することの影響について対策を考えることも重要だ。そのため、富士山周辺地域だけに留まらず、首都圏の企業においても噴火BCPの構築について考えてみる必要があるだろう。