愚かな人間について

「人道援助の使命は人命を救い、苦痛を軽減し、人間の尊厳を維持することである」
                   ―欧州人道行動パートナーシップ

住宅火災 パート1 日曜日の早朝
ニューヨーク市ブルックリン区ブラウンズビル

消防官によれば火災は午前4時半頃、東98丁目とサッターアベニューの近くのエレベーターのないアパートの4階で発生した。2人のシングルマザーが子供5人とともに住んでいた。火災が発生する前に何の警報もなかったという。消防隊は急行したが、現場に到着したときにはアパートは火炎に包まれており、一生の財産は数分のうちに溶けて焼き尽くされた。

「着るもの以外は何も持てなかった。それが全てだったと被災者のテレサ・Cは言った」

テレサ・Cは家がないだけではなく望みも絶たれている。昨夜、夜明け前の暗い時間帯に、何ものかが彼女にとりついた。彼女と家族に手を伸ばしてパラレルな宇宙へ引き戻そうとしているクライシスであった。

今彼女はカオスと恐怖の場所であるそこに囚われている。明晰に考えることができない。「何か飲みたい?」とか「寒い?」といった簡単な問いかけにも答えるのは容易でない。希望を失っている。自分にとってものごとが良くなるとは信じていない。

われわれはこちらの世界にいて、パラレルな宇宙に一人残された彼女を見ているだけなので、彼女が経験していることを全く理解できない。彼女のために何をすることができるのか自信がないし、何を言えば良いのかさえ分からない。

まるでテレサ・Cと子供たちはハンセン病患者のようだ。警官は彼女に丁寧だし、消防士は子供たちにやさしい。しかし呑み込まれるのを恐れるように、あまり近づくことはしない。