2020/01/10
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
安全神話パターンその2 山岳信仰系
私も山が大好きなので、山を信仰の対象とする心情には深く共感します。全国各地の山岳系安全神話にはこんなものがあります。
まずは、日本一の富士山。

静岡では、富士山は、方角を確認する際のランドマークにされるなど、愛されていると感じます。でも、山梨での富士山は、ニュアンスが違っている気がします。例えば、山梨では「霊峰富士」と呼ぶ方が多い印象です。さらに、「山梨側から見る富士山のほうが美しい」という声もよく聞きます。宝永噴火の跡が山梨側から見えないのも理由にあると言われています。
さらに、津波や地震被害が知られている静岡とは違って、山梨は、「霊峰富士」が、豪雨や強風、災害を防いでくれるという安全神話として語られる傾向があると感じています。
同じ印象を山梨大学大学院総合研究部(工学域・土木環境工学系)准教授・秦康範氏も赴任された時に持たれたそうです。
この1959年台風については、2009年にシンポジウムも開催され、当時の被害状況の映像や、シンポジウム音声が下記のサイトで確認できるようになっています。
過去の被害はきちんと語り継いでいきたいです。
富士山と並び三霊山と呼ばれ、山岳信仰の盛んな山といえば、富山県の立山です。

3000メートル級の山々がそびえる北アルプスの主峰である立山の風光明媚さは言うに及ばずですし、ハイマツ林にしか生息しない雷鳥の姿は神々しさも感じます。そんな立山が地元の人の心の拠り所になることは、想像に難くありません。
そのため、富山で講演をすると、子育て中の若い世代でも「立山があるから災害はこない」と真顔でおっしゃる人が多いです。
しかし、あまり地元の方にも知られていないことに逆に私が驚いているのですが、富山県の津波到着想定時間は全国でも1、2を争うほど短いのです。
地震発生から1分未満に海面変動があり、2、3分で最高水位の津波がやってきます。津波は海から来るのです。立山があっても全く逃れることはできません。
立山を愛でつつも、対策は考えておきたいです。
同じく、金沢では、「白山があるから大丈夫」という声をお聞きしましたし、長野県では「アルプスがあるから災害が少ない」という声も前からお聞きしていました。美しい山々があるところでは、山岳信仰系の安全神話があるように思います。

山岳信仰と同じように自然崇拝系の安全神話としてお聞きしたのが、山口県下関市でお聞きした「関門海峡があるから大丈夫」というお話です。山だと風を遮る作用も理解できますが、関門海峡が一体何をしてくれるのか、お話をお聞きしてもよくわかりませんでした。
関門海峡については、国土交通省九州地方整備局下関湾岸事務局では、このように記載されています。
http://www.pref.toyama.jp/cms_pfile/00017580/01067018.pdf
たとえ安全に結びつかなくても、関門海峡は、日本で3番目に潮流が速く、干潮と満潮で潮の流れの向きが6時間おきに変わる、自然の恵みの多い場所です。
関門海峡を愛でたい方は、安全神話ではなく、下関市立しものせき水族館の海響館にある関門海峡潮流水槽で再現される潮流をおすすめします。潮流変化による渦まで見ることができますので、要チェックです!
また、全然防災と関係ないですが、海響館のフンボルトペンギンの特別保護区ツアーはおすすめです!
自然を愛する気持ちと災害対策が両立すればいいなと思います。
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方