2019/12/18
危機管理担当者が最低限知っておきたい気象の知識
想定上のリードタイムの調べ方
リードタイムについては各情報によって発想が異なってくるため、(1)洪水予報指定河川や水位周知河川の場合と、(2)その他の中小河川の洪水や内水氾濫、土砂災害の場合の場合に分けて調べ方をご紹介したいと思います。
(1)洪水予報指定河川や水位周知河川の場合
洪水予報指定河川や水位周知河川の場合、過去の増水時にどの程度の速さで水位が上昇したかがリードタイムの手がかりになります。
次の例は国が作成した資料から抜粋したもので、岩手県を流れる久慈川を対象にリードタイムが調べられたケースです。過去の顕著な増水事例として平成28年台風第10号が取り上げられ、河川が危険な状態となる何時間前に基準となるそれぞれの水位を超えていたかの確認が行われました。上部の棒グラフは降水量、折れ線グラフは時間ごとの河川水位の変化を表します。
この分析では、堤防天端高に達していた時間を河川が最も危険だった時間と仮定しています。その水位に至る約2時間前に避難判断水位(レベル3相当の水位)を超え、その20分後である約1時間40分前に氾濫危険水位(レベル4相当の水位)を超えていたことがグラフから分かります。これらの時間が久慈川の過去事例をもとに想定されたリードタイムです。
水位の上昇スピードは河川によって異なるので、リードタイムを把握する際にはそれぞれ個別に確認する必要があります。過去の増水事例は国や都道府県などの河川管理者がストックしています。そうした機関に問い合わせ、基準となる水位から氾濫の発生が想定されるまでの時間を確認されておくことをお勧めします。
(参考)
河川管理者(国の場合)の問い合わせ先一覧
http://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/jouhou/jieisuibou/bousai-gensai-suibou-shien.html
なお、実務上の注意点として、リードタイムは想定でしかなく、災害の様相は毎回異なるということをよく理解しておいてください。過去の増水事例ではリードタイムがたまたま2時間だったとしても、その時を上回る雨に見舞われて水位上昇のスピードが早まれば、その分リードタイムも少なくなります。リードタイムが短くなる場合を見越した防災行動の計画を用意しておきましょう。
(2)その他の中小河川の洪水や内水氾濫、土砂災害の場合
水位のデータがない中小河川の洪水や、下水などで雨が処理しきれず発生する内水氾濫、そして土砂災害に関しては、過去の記録をもとにリードタイムを想定することがなかなか難しいため、「気象情報の対象範囲の時間帯」をリードタイムの代わりに用います。
「気象情報の対象範囲の時間帯」というのがイメージしにくいと思いますので、一つ例を挙げてみたいと思います。土砂災害の危険性が高まった際に発表される「土砂災害警戒情報」を考えてみましょう。この情報は、過去に発生した重大な土砂災害に匹敵するような状況に、2時間先までに至る可能性がある場合に発表されます。この「2時間先までに」というのが「気象情報の対象範囲の時間帯」であり、これをリードタイムの代替として使っていきます。
では、それぞれの災害について想定上のリードタイムを以下で確認してみましょう。
(中小河川の洪水に特化した情報)
○洪水警報
災害に結びつくような激しい現象が発生する3-6時間前(ただし短時間の強雨については2-3時間前)の時点が基本
○洪水警報の危険度分布
「注意」(黄色)、「警戒」(赤色)、「非常に危険」(うす紫色)の各段階は3時間先までの予測を元に発表。「極めて危険」(濃い紫色)の段階は実況に基づき発表
(内水氾濫に特化した情報)
○大雨警報(浸水害)
災害に結びつくような激しい現象が発生する3-6時間前(ただし短時間の強雨については2-3時間前)の時点が基本
○大雨警報(浸水害)の危険度分布
「注意」(黄色)、「警戒」(赤色)、「非常に危険」(うす紫色)の各段階は1時間先までの予測を元に発表。「極めて危険」(濃い紫色)の段階は実況に基づき発表
(土砂災害に特化した情報)
○大雨警報(土砂災害)
災害に結びつくような激しい現象が発生する3-6時間前(ただし短時間の強雨については2-3時間前)の時点が基本
○土砂災害警戒情報
2時間先までに、過去に発生した重大な土砂災害に匹敵するような状況になると予測された場合に発表
○大雨警報(土砂災害)の危険度分布
「注意」(黄色)、「警戒」(赤色)、「非常に危険」(うす紫色)の各段階は2時間先までの予測を元に発表。「極めて危険」(濃い紫色)の段階は実況に基づき発表
これらの情報に共通する注意点として、「○時間先までの」というのは、決して「○時間後」ではないことに留意してください。下の図は「3時間先まで」を予測対象とする洪水警報の危険度分布の例ですが、「警戒」(赤色)→「非常に危険」(うす紫色)→「極めて危険」(濃い紫色)に至るまでに1時間しか余裕はありませんでした。雨の降り方によっては状況が一気に悪化します。結果、リードタイムがほとんどない事態も起こり得ます。そうした例も頭に入れながら防災行動の計画を立ててください。
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