木村氏は大阪北部地震や北海道胆振東部地震を振り返り、企業の災害対応について分析した

帰宅困難者対策の難しさ再び実感

兵庫県立大学准教授の木村玲欧氏は「過去の災害の教訓はどこまで生かされたか 住民の避難行動、企業の社員の出社帰宅判断のあり方などを考える」と題して講演。「大阪北部地震では発災が出勤時間と重なったにもかかわらず、無理に出社しようとしたり、帰宅困難者が出たりと問題があった」と述べた。「リスク対策.com」が大阪北部地震で震度5弱以上を観測した自治体に自社施設を有する企業を対象に行い、148件の有効回答があったアンケートを引用。初動対応に役立ったものとして「安否確認システムの導入」と答えた企業が最多なことを紹介した。また、大阪府が9月に「事業所における『一斉帰宅の抑制』対策ガイドライン」を策定し、帰宅困難者の安全への配慮や大量に道路を歩くと救助活動の妨げになることから、むやみに移動しないように呼びかけていることにも触れた。

北海道胆振東部地震では木村氏自身が当時旭川市に滞在し、混乱を体験。「電力が生活に欠かせない社会基盤であることを再認識した」と述べた。その中で北海道のコンビニエンスストア、セイコーマートが非常用電源を確保しほとんどの店舗で営業を続けたことを評価。また京都市の91歳の女性が5年間で20回を超える避難を行い、「空振り」に終わっていたが、平成30年7月豪雨において、避難したことで命が助かった事例を紹介。「疑わしい時は行動、最悪事態を想定した行動、空振りは許されるが見逃しは許されない―という『プロアクティブの原則』を念頭に置いてほしい」と述べた。

臼田氏は今年の災害におけるSIP4Dの活用について説明した

SIP4Dの活用進む

国立研究開発法人防災科学技術研究所総合防災情報センター長兼レジリエント防災・減災研究推進センター研究統括の臼田裕一郎氏は、「(日本漢字能力検定協会が選ぶ)今年の漢字は『災』だったが、草津白根山の噴火に北陸の大雪も含め本当に災害が多かった」と振り返った。そして防災科研が中心となって整備を進めている、政府や関係機関が災害時に情報共有するためのシステム「府省庁連携情報共有システム(SIP4D)を説明。2014年から開発を進め、臼田氏も今年は大阪北部地震、平成30年7月豪雨、北海道胆振東部地震で同システムによる支援のために被災地入りした経験を語った。

大阪北部地震では大阪ガスの情報と道路や避難所の場所の情報を重ね合わせることで、自衛隊の入浴支援に活用したという。また、平成30年7月豪雨では被災地である岡山県のホームページに防災科研の情報公開ページへのリンクが貼られたほか、自衛隊のツイッターでも紹介された。また、防災科研はLINEと協定を締結。SIP4DとLINEアプリを連携させ、今後設置される防災アカウントを通じた災害情報の配信のほか、被災者から情報収集やAI(人工知能)を用いた質問への応答などを行う計画も紹介した。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介