【北京時事】中国の習近平政権は台湾統一に向け、武力行使に当たるかどうかの判断が難しい「グレーゾーン戦術」と疑われる動きを強めている。今年に入り台湾周辺で海底ケーブル切断が複数回発生しており、通信遮断もちらつかせて台湾に揺さぶりをかけていく構えだ。トランプ米政権の台湾政策を見極めつつ、台湾封鎖の準備を着々と進めている。
 ◇「祖国統一を推進」
 「祖国統一の大業を揺るぎなく推進し、(台湾住民と)手を携えて民族復興の偉業を共に成し遂げる」。中国共産党序列2位の李強首相が5日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開幕式でこう宣言すると、会場は拍手に包まれた。
 こうした統一の呼び掛けに、台湾の頼清徳政権が応じる可能性はゼロだ。頼総統は昨年5月の就任演説で「中華民国(台湾)は主権独立国家」と主張し、統一攻勢に真っ向から対抗。習政権は「独立勢力への懲罰」として、台湾を取り囲み大規模な軍事演習を行った。
 ◇侵攻は難易度高く
 中国軍が台湾侵攻を成功させるためには、ミサイルなどでの先制攻撃後に大量の兵員を送り込む必要があるとされる。「米軍主導の反撃を踏まえれば、現時点では台湾海峡の渡海作戦は難易度が高い」(西側外交筋)
 中国軍が統一に向けた当面の圧力として力を入れるのが台湾の経済封鎖で、その演習を繰り返している。タンカーの接岸阻止で台湾の備蓄燃料を枯渇させることなどを想定しているとみられ、通信遮断の試みと疑われる動きも目立ってきた。
 ◇有事にネット遮断も
 台湾当局は今年2月、南部海域で海底通信ケーブルが切断され、付近で貨物船を拿捕(だほ)したと発表。船員8人全員が中国人で、「工作船のグレーゾーン攻撃か」との見方も浮上するが、中国政府で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は「世界中でよくある事故で、台湾側は話を膨らませている」と批判する。1月にも、台湾の北部海域で似た事案が起きている。
 貨物船などがいかりを下ろしたまま航行し、海底ケーブルを引っ掛けて切断に至る事故は確かにあるが、過失か故意かを判断するのは難しいと言われる。台湾の軍事評論家は「台湾と海外をつなぐ海底ケーブルが全て断ち切られれば、インターネットをはじめ、ほぼ全ての通信が遮断され大混乱に陥る」と警鐘を鳴らす。衛星通信で代替できる範囲は限られ、島国の日本も台湾と同じリスクを抱えていると指摘する。 
〔写真説明〕台湾海巡署の船に包囲される貨物船「宏泰」(右)=2月25日(同署提供・時事)

(ニュース提供元:時事通信社)