【ニューヨーク時事】脱炭素社会の実現に向けた取り組みが活発化する中、空気から二酸化炭素(CO2)を除去することで創出される「炭素クレジット」に米大手企業が熱い視線を向けている。マイクロソフト(MS)などが多額の資金を投じて購入しており、いわば空気から金銭的価値が生まれるビジネスモデルが成立しつつある。排出削減目標達成のほか、クレジットの値上がりを見据えた転売目的も見え隠れする。
 ◇相次ぐ長期契約
 空気中に0.04%含まれるCO2を特殊な設備で回収する技術は「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」と呼ばれる。回収したCO2を地中に貯蔵すれば、相当分がクレジットとして売買可能になり、購入した企業は自社の排出削減量として算入できる。
 CO2回収ビジネスで先行するスイス新興企業「クライムワークス」は今年、アイスランドで世界最大のDAC施設の稼働を始め、米国などでも事業を計画中だ。MSや米金融大手JPモルガン・チェース、米ボストン・コンサルティング・グループにクレジットを販売する長期契約を結んだ。
 契約額は非公表が多いが、クライムワークスとJPモルガンが昨年発表した9年契約では、2万5000トンのCO2除去に対し2000万ドル(約29億円)以上が支払われる。JPモルガンのピント社長兼最高執行責任者(COO)は「CO2除去・貯留の大規模化を進め、市場に強いシグナルを送りたい」と述べた。
 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が投資する米エネルギー大手オクシデンタル・ペトロリアム傘下でDAC事業を手掛けるワンポイントファイブも、MSや米アマゾン・ドット・コム、全日本空輸などと契約を締結した。
 ◇高値で転売か
 なぜ大手は多額をつぎ込むのか。第一の理由は排出削減目標の実現だ。特にクレジット購入に熱心なMSは、2030年までに排出量の実質ゼロを超えてマイナスにすることを目指している。さらに50年にかけてCO2の除去量を増やし、創業以来排出してきた分を完全相殺するという野心的な目標も掲げる。
 利益を得る狙いもありそうだ。あるDAC企業関係者は「IT大手などは自社で使わずに余った分を将来高値で転売できると見込んでいる」と指摘する。
 DACやCO2の地下貯留により創出されるクレジットは、植林活動などが由来のものと比べ高い値段がつきやすいとされる。CO2回収量を正確に把握できるほか、貯留場所の多くが米欧の先進国に整備されていることから、より「信用度」が高いとみなされるためだ。
 現状では貯留に適する場所が限られていることも、投資対象としての魅力を高めている。先の関係者は「クレジットの価値は上昇していくだろう」と見通しを語った。 
〔写真説明〕スイス新興企業クライムワークスが操業する世界最大の二酸化炭素(CO2)回収施設=5月、アイスランド(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)