タムラ製作所のイントラネットトップ画面の一部(上)と左の柱の「アラーム報告」を押したときの画面(提供:タムラ製作所)

変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所(東京都練馬区、浅田昌弘代表取締役社長)は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。

3つのポイント
❶エスカレーションをシステム化
・ 報告すべき内容とタイミングについて、各段階で考え、判断する時間を省く

❷トップから繰り返しの課題提起
・ 社長自ら会議で繰り返し、遅れを指摘して改善を促す

❸ 規程の着実な見直しで危機管理能力を向上
・ 見直しを繰り返し、改訂を確実に規程に反映させて、対応力を前進させている

エスカレーションの仕組み

コーポレートガバナンス推進本部 サステナビリティ推進室でシニア エキスパートを務める神宮信康 氏(左)と星裕文氏

タムラ製作所コーポレートガバナンス推進本部サステナビリティ推進室でシニアエキスパートを務める神宮信康氏は、インシデント報告システム「アラームエスカレーション」について「インシデントの発生またはその恐れがある場合、第一報を入れる。バッドニュース・ファストの先進的な取り組みとしてスタートした」と説明する。

従業員からのインシデント報告を複数の担当者や責任者、部門長を経由して経営層まで届けるエスカレーションをスムーズに実施するのは簡単ではない。なぜなら、報告すべき内容とタイミングについて、各段階のそれぞれで判断が求められるからだ。結果として、経営層に報告があがるまでに時間を要したり、伝言ゲームの間に内容の変化が起きたりする。

同じくサステナビリティ推進室シニアエキスパートの星裕文氏は「報告のスピードアップを求めていました。遅くなるほど、事態は悪化します。当初から報告は内容の重大さによって分けています。重大なインシデントの報告は直接に経営層に届く仕組み。制度設計や周知徹底を精力的に行ってきました」と話す。

同社は報告内容をリスク管理・危機管理規程で定め、リスクの種類と影響度に応じてレベルAとレベルBに分類。損害額が高額になるケースや重大な不正はレベルAに該当し、社長に直接報告が届く。インシデントの発生だけでなく、ヒヤリハットのような、前兆になり得る「芽」までを報告するルールだという。

報告の大項目には「法令に関わる事項」「災害・事故・テロ」「労働安全衛生」「環境・品質」「経理・調達」「広報」「財務」「情報開示」「その他」を設定。小分類まで含めるとレベルAは27、レベルBは29の項目に分けられている。レベルAとレベルBに共通の項目と、一方にだけ存在するものがある。神宮氏はこう語る。

「労働災害でも、人命に関わる場合はレベルAになります。またレベルA、Bの項目に該当しない重大リスクも報告できる仕様になっていて、漏れている報告項目がないような仕組みです」

このようにシステム化しているメリットを、星氏は「誰に報告を伝えればいいか迷うことがなくなる」と説明。小項目に入力する段階で、人事関連なら人事責任者、品質関連なら該当の事業部門責任者といった具合に、担当の責任者が自動選択される。小項目の入力欄を選択するだけで、報告を社内のどのレベルの誰まで伝えるかをシステムが判別し、入力者は考える必要がない。

入力が完了すると、自動的にメールで責任者などに報告が届く。レベルAなら社長と全ての取締役、関係する執行役員に同様の報告が届くのは前述の通りだ。アラームエスカレーションへの入力はどの従業員も可能だが、実態としては直接の上司に報告や相談をしてからの入力になっているという。4年前まで事業部門や人事部門に所属していた星氏は「何かあったら、あるいは何かが起きそうなときは必ず入力しなくては、というのが現場の感覚」と話す。