2024/03/10
令和6年能登半島地震
復興の視点 能登の脆弱性と独自性
金沢大学人間社会研究域地域創造学系准教授 青木賢人氏
あおき・たつと
1969年生まれ。1992年東京学芸大学教育学部卒業、2000年東京大学大学院理学系研究科地理学専攻修了。2002年金沢大学着任。専門分野は自然地理学、地形学、地域防災。博士(理学)。石川県防災会議震災対策部会委員、石川県教育委員会学校防災アドバイザーなどを務める。令和6年能登半島地震金沢大学合同調査チームメンバー。
能登半島地震では多数の孤立集落が発生し、道路啓開が難航して早期の救助・救援を難しくした。半島奥地、地すべり地、過疎高齢化といった条件が被害を拡大したとされている。しかし、そもそも日本の生活・社会基盤は地域の地形や気候風土の上に築かれてきた。その基盤が過疎高齢化で揺らいでいるのは全国共通だ。能登の復興を考えることは、日本のこれからを考えることでもある。金沢大学准教授で石川県防災会議震災対策部会委員を務める青木賢人氏に、被害に影響を与えた能登の特性と今後の復興について聞いた。
能登が抱えていた脆弱性
―― 能登半島地震で孤立集落が多発した背景として、地形や過疎高齢化の影響が指摘されている。
そもそも脆弱性が高く、被害が増幅しやすい地域。非常時に助けを必要とする高齢者が多いうえ、その人たちが、ただでさえアクセスが困難な集落に散在する。そこを内陸地震としては最大級の揺れが襲った結果、アクセスがいっせいに寸断され、ライフラインも断たれた。
地形条件を鑑みれば、防災上、道路の高規格化や冗長性の確保といった対策は取り得たと思う。しかし、過疎高齢化の進行が思い切ったインフラ投資を難しくした。現在の国土政策においては、人口の少ない地域への投資は経済効率がシビアにみられてしまう。
石川県も「ダブルラダー輝きの美知(みち)構想」を掲げ、のと里山海道の片側2車線化や、外浦と内浦を結ぶ横断道の整備を進めていた。が、地域振興の観点だけでは投資促進に至らなかった。もしそれらの整備がもう少し早く進んでいたら、アクセスの寸断と孤立はもう少し抑えられたかもしれない。
――インフラの整備は災害への備えでもある。その点、地域防災計画が投資の説得力として重要になる。
石川県の地域防災計画の地震災害想定は、今回の能登半島地震に相当する「能登半島北方沖の地震」を対象にはしていた。が、設定が1997年度と古く、規模もマグニチュード(M)7.0 と小さく見積もられていた。ゆえに被害も小さく見積もられ、大規模な事前対策とそのためのインフラ投資を求める議論には、全体としては、発展していなかった。
一方で地域防災計画の津波災害想定は、東日本大震災を受けて2011年度に改定され、政府の公表データにもとづくM7.66の地震とそれにともなう津波が設定されていた。大きな被害が出ることをふまえて防災教育や避難訓練が熱心に行われた結果、津波被害は、ゼロにはならなかったものの、物理的ダメージの大きさから見たら小さく抑えられたと思う。
地震災害も津波と同じM7.66で想定していれば、かなり大きな被害が予測されただろう。実はその検討作業を県の防災会議で進めていた真最中で、もうすぐ計算結果が出るはずだった。それがハザードマップに反映し、市町の防災計画に反映し、対策が取られていればと思うと、悔み切れない。結果的に、5年遅かった。
――その作業ができていれば、孤立集落の多発もある程度は想定し得えたのか。
2007年に起きたM6.9の能登半島地震の際も孤立は起きていたから、もしM7.66で震災被害想定を行っていたら、当然、孤立の発生は反映されただろう。ただし、今回ほどの孤立の多発を想定できたかはわからない。私自身、住民の方々に説明するときは「外浦は道路が寸断されて大変なことになる」と説明していたが、正直、思った以上だった。
能登半島の外浦側は比較的新しい第三紀の砂層で構成され、かつ、層理面が発達した流れ盤構造だ。傾斜に向かって地すべりが起きやすく、特に冬期は土壌水分が高い。そこへ強振動が襲ったことで、多くの地すべり地が、なかば流動するように活動した。
東日本大震災は津波だったから、上に覆いかぶさっているがれきの除去が道路啓開だった。これに対し能登は、地すべりによって道路の地盤が流れ出ている。土砂を取り除けば通れるわけではなく、地盤を埋め戻して仮設道路をつくらないと重機が通れる道にならない。
そのように啓開作業自体が複雑なうえ、寸断箇所も多い。半島を縦横断する道路が複数あれば寸断箇所から両側に啓開を進めていけるが、先に述べたように冗長性がないから、1カ所ずつ直しながら一方向に進んでいくしかない。県内建設業者は総動員で作業を行ってくれたが、道路啓開は難航せざるを得なかった。
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