2023/10/12
事例から学ぶ
被災しても周辺地域に影響は出さない

総合化学メーカーの旭化成グループで最大の生産拠点を統括する延岡支社(宮崎県延岡市)は、東日本大震災以降、災害対応力の向上に取り組んでいる。同支社が管轄するのは延岡市と日向市にある二十数拠点に及ぶ工場。その多くが、住宅地や商業施設と密着し、化学物質を扱う工場も含まれるため、被災時に従業員の安全を確保するとともに近隣に影響を与えないようにすることを延岡支社の災害対策の目的にしている。これまでも工場施設の耐震補強、貯蔵タンクの流出防止対策、避難タワーや防潮堤の建設を実施してきたが、近年はITを駆使した情報共有システムも整備した。
延岡支社・企画管理部の名井一展氏は「南海トラフ地震でレベル2の津波が襲ってきても、地域に迷惑をかけない対策を進めてきました」と説明する。南海トラフ地震では、100年に1度発生するマグニチュード8クラスのレベル1(L1)と1000年に1度か、それ以下の確率で発生するとされるマグニチュード9クラスのレベル2(L2)の2つのレベルが想定されている。L1の場合、延岡地区と日向地区では津波による被害は限定されるが、L2では最大の津波高は延岡市で14メートル、日向市で15メートルにまでなり、到達時間はそれぞれ17分になると想定されている。

こうしたことから、延岡支社では、各施設の耐震補強と、両地区に大量に存在するタンク流出対策を優先して実施してきた。東日本大震災のように津波により多くのタンクが海面を漂流すれば、タンク内の危険物や化学物質が流出し、周辺地域に甚大な被害を及ぼしかねないからである。さらに「特に危険性の高い薬品は、建屋の中で管理しています」と環境安全部で部長を務める竹本欣弘氏は説明する。
それでも、港に接する日向地区の一部地域では、これらの対策だけでは太刀打ちできないため、工場全体を囲い込んで海水の流入を阻止する防潮堤の建設も進めてきた。日向化学品工場は、2021年に完成した高さ4~5メートルの防潮堤が周囲をぐるりと取り囲む。同年にハイポア日向工場でも新たな防潮堤の建設が始まった。また、2013年に延岡新港にある新港基地敷地内に、2014年に日向地区にある日向化学品工場敷地内に標高15メートルを越える津波避難タワーを建設。収容員数はそれぞれ120人及び200人で、新港基地の避難タワーは従業員だけではなく周辺住民にも開放している。
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