2023/06/19
Joint Seminar減災2023特別企画

前国立研究開発法人防災科学技術研究所理事長の林春男氏と、関西大学社会安全センターセンター長の河田惠昭氏が代表を務める防災研究会「Joint Seminar減災」(事務局:兵庫県立大学環境人間学部教授 木村玲欧氏)は5月19日、大阪市内で林春男代表の防災科学技術研究所理事長退官を記念した特別セミナーを開催し、林氏が「ワールドを訪ねて~これまでの研究生活をふりかえり、いま伝えたいこと」をテーマに講演した。林氏は、約40年に及ぶ研究人生を振り返るとともに、来るべき巨大災害に向け防災DXの構築が急務であることを訴えた。講演概要から防災DXに関することを抜粋して紹介する。
首都直下地震や南海トラフ地震へのタイムリミット
2020年から2050年まで、21世紀前半のわが国を俯瞰すると、2035年ぐらいに南海トラフ地震が起き、同時期に首都直下地震も起きるかもしれないといわれています。被害総定額は南海トラフ地震が200兆円、首都直下地震が100兆円ですから、全部で300兆円を超える被害が出て、わが国の国民は1人当たり300万円の負債を負うことになります。その前に西日本で直下地震がいくつか起こるでしょうし、時期的には択捉島、国後島辺りで地震あるいは津波被害があってもおかしくありません。それらから立ち直らなければならず、非常に長期にわたる復旧・復興が予測されています。
南海トラフ地震が、なぜ2035年かというと、島崎・中田の1980年の発表が基になっています。彼らが過去の南海トラフの地震を調べると、四国の室戸岬の方にある室津ではいつも地盤が跳ね上がり、地盤の跳ね上がる量とマグニチュードがほぼ相関し、それが次の発生時間とも関連する可能性が示されました。そこで、図表1のグラフを作りました。宝永地震で2メートル、それから約150年後の安政南海地震で1メートル20センチ、それから約80年後の昭和南海地震でまた1メートル20センチぐらい跳ね上がりました。本当はその間に地盤がたわんでいくのですが、地殻変動がないと仮定すると階段状のグラフが描けて、下の角が一直線に並ぶというのです。彼らは昭和南海地震までしか描いていませんが、点線を伸ばして斜線との交点を求めて垂線を引くと2035年になります。

増加する気象災害
このような連続的な地震災害に加えて、極端気象や気候変動の影響が極めて顕著になってきています(図表2)。図表3を見ると、増えているのはブルーの洪水と黄色の極端気象、いわゆるゲリラ豪雨や雹などです。気象系の災害の絶対数が世界中で増えています。


加えて、わが国は歴史上初めて人口減少傾向を迎えています。公式のデータでは、2008年から人口減少傾向が恒常化しています(図表4)。出生数より死亡数の方が多い状況が21世紀はずっと続くだろうといわれています。子どもの数がどんどん減り、生産年齢人口が減ってきています。

求められるレジリエンスの向上
このような社会状況の中で、300兆円を超える災害被害を乗り越えられるようにしなければいけません。被害をゼロにはできないので、やらなければいけないことは、少しでも発生する被害を減らす努力を続けること、重要な社会機能については高い事業継続能力を持つこと、社会全体として速やかな復旧・復興を実現することの3つです。これらを総合してレジリエンスといい、われわれはこれからレジリエンスを高めていかなくてはいけません。具体的には、予防力と回復力を高めて全体の脆弱性を小さくすることが重要です(図表5)。

- keyword
- 防災DX
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方