2023/05/02
コロナ後の防災
企業が地域とつながる意味は予想以上に大きい
香川大学 磯打千雅子准教授に聞く
IECMS 地域強靱化研究センター准教授
磯打千雅子氏
いそうち・ちかこ
香川大学博士(工学)。2015 年度地区防災計画学会室崎賞(論文賞)を受賞。専門分野は地域防災、BCP、DCP(地域継続計画)、地区防災計画。香川県防災会議委員、国土交通省四国地方整備局四国建設業 BCP 等審査会委員、香川県中小企業BCP 優良取組事業所認定制度審査委員、香川地域継続検討協議会委員・事務局、 内閣府地区防災計画アドバイザリーボード委員、地区防災計画学会理事、NPO法人女性技術士の会理事。
企業はコロナ禍の学びをこれからの防災活動にどう生かすか。重要なポイントの一つが地域社会との関わり方だ。災害時に外部の支援が必ずしも得られるとは限らない状況が浮き彫りとなったことで、身近なコミュニティーの大切さが再浮上。企業が地域防災に参画していく意味があらためて問われている。両者が抱える課題と良好な関係づくりの方向性を、香川大学IECMS 地域強靱化研究センターの磯打千雅子准教授に聞いた。
住民との良好な関係は企業の価値になる
――近年、多様な主体による防災活動が重要視されています。地域防災における企業の役割はどのようなものですか?
地域防災と企業の関わりというと、例えば災害後の寄付やボランティア支援が思い浮かびます。一方で平時の活動はなかなか見えにくい。良好な関係性は普段からコミュニティーに加わり、時間をかけてつくっていく必要がありますから、そうした地道な活動の大切さももっと知ってもらわないといけないと思っています。
例えば2018年の西日本豪雨で被害を受けた倉敷市真備町では、企業や商店もいっしょになって防災活動に取り組んだほうが知恵やアイデアが出るだろうということで、住民の方々がいろいろな会社をまわって参加を呼びかけました。そこで意外にも興味を持ってくれたのが銀行です。
銀行は大雨のときも、なかなか店舗を閉めづらいそうです。他店が開いていれば「なぜおたくだけ閉めるの?」となる。そのため、例えば「気象庁から大雨警報が出たら店を閉める」と決めておき、それをあらかじめ住民に知ってもらえたら非常にありがたいというお話でした。
普段の関係性のなかで「〇〇銀行は大雨警報が出たら店を閉める」と住民がみな知っていれば、実際に閉めたときに摩擦が生じにくい。豪雨が予想されるときの早期閉店は企業防災にもメリットがありますし、周囲に警戒心を喚起する意味では地域防災にも役立ちます。企業の参加によって防災の取り組みが多様化するわけですね。
――企業が地域防災に参加することは、双方にメリットがある、と。半面、関係をつくるまでには相応の時間もかかりそうですが、費用対効果はどう見ますか?
いまの銀行の事例でわかるように、地域とつながるのは地道で地味な活動です。コツコツと関係をつくっても、何かすごいことができるわけではなく、表から見えにくい。ただ、日頃のつながりがなければ、被災地への寄付も、ボランティアの派遣も、会社の避難所開放も、いきなりやろうとしてもうまくいきません。
また、これは違う事例なのですが、ある工場で休日に小火があり、それを近隣の方が発見・通報してくれたおかげで大事に至らなかったケースがあります。つまり企業と地域には補完関係がある。企業には平日・昼間に人がいて、地域には休日・夜間に人がいます。お互いに補い合って防災力、さらに事業継続力や地域継続力を高められる関係が理想です。
実際、企業にとって立地条件のよさは価値の一つ。周辺の自然環境や利便性、安全性などなどさまざまな要素があるでしょうが、住民との関係性のよさも非常に重要です。特に社員が気持ちよく仕事をするうえでは欠かせません。
一方で住民にとっても、企業との関係性のよさはとても大事。塀を隔てた向こう側で危険物を扱っていたとして、何も知らない、知らされないような関係性は問題です。普段は困らないかもしれませんが、ひとたび災害が起きれば二次災害を誘発し大惨事を招くおそれがある。そのとき初めて「この工場は危険物を扱っていた」と知るようでは残念です。
地域と企業の関係が良好で、何を扱っているのか、どんな仕事をしているのかを住民が知っていれば、二次災害は回避できます。それは企業のリスクマネジメントにおいてもプラスになるでしょう。
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