2022/10/12
事例から学ぶ
オフィス家具メーカーのオカムラ(神奈川県横浜市、中村雅行社長)は2021年からの中期経営計画にESGへの積極的な取り組みを掲げ、4つの重点課題を設定。うち「地球環境への取り組み」については、TCFDへの賛同を表明すると、その2カ月後に早くも情報を開示した。気候変動対応への高い目標、リスクと機会への取り組み意欲がサステナビリティ推進体制を前進させ、ESGをけん引している。
記事中図表提供:オカムラ
オカムラ
神奈川県
※本記事は月刊BCPリーダーズvol.30(2022年9月号)に掲載したものです。
❶気候変動対応をサステナビリティ活動の上位に
・気候変動対応をESG経営およびサステナビリティ活動の上位に位置付け、推進体制を整備するとともに、TCFDへの賛同を表明してからわずか2カ月で情報開示。
❷推進プロジェクトを立ち上げ現業部門と連携
・気候変動対応をリスク管理上の問題だけに終わらせず、推進プロジェクトを立ち上げて現業部門と連携。ビジネスに直結する取り組みを促し、同時に社内広報によって全社員へ意識を浸透させる。
❸高い目標が組織を前進させESG経営をけん引
・シナリオ分析と情報開示がより高い目標設定・宣言につながり、それがサステナビリティへの意識を高め、推進体制をさらに前進させて、ESG経営をけん引する。
TCFD賛同から2カ月で情報開示
1993年に第1次環境中期経営計画をスタートさせ、今日に至るまで地球環境に配慮した取り組みを進めてきたオカムラグループ。同社がTCFDの取り組みを開始したのは2020 年の秋。2021年4月に賛同を表明し、2カ月後の6月には情報を開示した。
同社は2020 年5月に発表した中期経営計画の基本方針にESGへの積極的な取り組みを掲げ、重点課題の4分野「人が活きる環境の創造」「従業員の働きがいの追求」「地球環境への取り組み」「責任ある企業活動」を発表。気候変動への対応は、このなかの「地球環境への取り組み」に盛り込まれている。
この動きとほぼ同時に環境とCSR、品質管理部門を統合し、サステナビリティ推進部を新設。同部部長の関口政宏氏はこう語る。「それまでは環境マネジメントシステムのISO14001による対応が中心でしたが、社会的要請が気候変動に移ってきた。中期経営計画達成に向け、次の展開を見据えたサステナビリティに注力するための改組でした」
TCFDの取り組みは、サステナビリティ推進部の発足当初より優先度の高いタスクとして認識し、開示を前提にスタート。シナリオ分析などの目途が立った段階で「賛同」を発表した。
TCFDの賛同を表明してから情報開示にたどり着くまで、インターバルの期間が長い企業が少なくないが、オカムラでは賛同から約2カ月と短い間隔での情報開示となった。
現業実務者による推進プロジェクト
同社のサステナビリティマネジメントの中心は、年に2回開かれるサステナビリティ委員会。重要な気候関連リスクと機会を特定し、リスクのモニタリングや再評価を行った上で、グループ戦略に反映する。
委員長は社長が務め、各事業本部とコーポレート部門を統括する執行役員が参加。事務局はサステナビリティ推進部が担当する。承認事項は各組織を介して事業に展開。定期的なフォローを行うとともに取締役会に報告し、取締役会の管理、監督を受ける。
一方、現業の実務者が集まるのがサステナビリティ推進プロジェクトだ。ビジネスに直結する取り組みを担当する事業推進チームと、社内広報と浸透を目的とした情報発信チームの2チーム体制。合わせて20人ほどが参加している。事業推進チームは販売と生産、本社の部長が中心、情報発信チームは若手中心のメンバー構成となっている。
TCFDの開示ではサステナビリティ推進部が枠組みを決め、リスクと機会の抽出から始まるシナリオ分析の段階で、サステナビリティ推進プロジェクトの事業推進チームと情報を共有し、戦略を策定していった。
関口氏が語るのは、同プロジェクトにおける事業推進チームと情報発信チームの両輪の重要性だ。同社ではTCFDを含めたサステナビリティを事業につなげるため、社員にサステナビリティ意識の浸透を図っている。
「TCFDを情報開示とだけとらえると、コーポレート部門だけでも取り組め、極端に言えばサステナビリティ推進部だけで対応は可能。しかし、サステナビリティを踏まえた事業や製品の展開にはつながらない。逆に言えば、サステナビリティの取り組みは事業や製品に結実しないと意味がない。そのため日々の業務にどう落とし込むかが重要です。事業推進チームによるビジネス展開はもとより、情報発信チームによる社員への浸透が不可欠です」
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