2015/01/20
C+Bousai vol2
コミュニティの力を実質化
「阪神・淡路大震災以降、コミュニティの結束が大事だという話は広まってきたが、東日本大震災を経て、より一層、コミュニティの力を強化し、実質化することが問われるようになった。それを実現するカギとなるのはリアリティ。中谷氏をはじめ、真陽地区の住民の方々は、防災に対して常にリアリティを持って取り組んでいる」と話すのは、関西大学で災害ジャーナリズム論、災害情報論を教える近藤誠司助教。大学卒業後にNHKに入社し、阪神・淡路大震災を取材した経歴を持つ。
近藤氏によると、真陽地区の住民は阪神淡・路大震災の経験から、「救助をあきらめた瞬間に目の前で人が死んでいく」という厳しい事実を知っているという。地震で津波の発生が予想されたときに、限られた時間でできるだけ多くの人を助けたいという切なる思いを追求した結果、「60分ルール」が生み出された。では60分をどう有効に使うことができるのか?また、60分という時間の経過をどうやって知ることができるのか? リアリティを追求して地域の連携策を模索した結果が、トラメガ隊であり、ショッピングカートであり、ストレッチャーだった。近藤氏は、それらを活用しながら訓練を行い、トライアンドエラーを繰り返すことで、地域がさらに1つの仲間になっていく「インボルブメント(社会的な巻き込み)効果」が発生しているという。
そのほかにも、道具によって人は変化する可能性がある。例えば、大学生にノートパソコンを配布したところ、ゼミのレジュメを作成したり、資料作成に積極的になるという事例がある。これを学術用語では「アーティファクト(道具)によるアイデンティティ(主体性)の変容」という。パソコンという道具を持つことにより、学生が自らゼミに積極的に参加するなど、主体性が変化することを指す。トラメガ隊にも同様のことが発生したという。それまで、自治会長は周囲に状況を周知する役割があったはずなのだが、自覚の薄い人も多かった。しかしトラメガを配布した自治会長らに学生がアンケートを行ったところ、「トラメガを渡されただけで非常に緊張感が出る」「トラメガをどこに置くか、旅行に行くときにはだれに託すか考えるようになった」「話し方を練習するようになった」など、活動に積極的になった人が増えたという。これもアイデンティティが変容した例だといえる。
「例えば防災に熱心でない地域住民であっても、ツールを渡す、役割を与えるなどで取り組み方が大きく変化することもある」と近藤氏は話す。
校内放送で震災情報を
東日本大震災ではコミュニティFMなどの重要性が確認されたが、近藤氏は真陽小学校における昼休みの校内放送で、毎週防災コンテンツを放送する取り組みを開始している。大学生と小学生が一緒になり、毎週1本原稿を書く。ほとんどが防災の知識を問う3択クイズ形式だが、東北の子どもたちとの交流エピソードや、被災体験のある先生へのインタビューもある。 「リアリティを高めるために必要なもう1つの要素は、ローカリティ」(近藤氏)。
新聞などの一般紙や、テレビの防災番組では一般化された情報しか入手することはできない。子どもたちが本当に知りたがっているのは、自分の命に係わる身近な情報だという。例えば「津波が来たら、高いところへ逃げろ」という表現だと、子どもたちにはわかりにくい。「津波が来たら、国道よりも北に逃げろ」というと、イメージができる。これが大阪だと「東へ」になる。校内放送は、このように子どもが自分の生活圏でイメージしやすいメッセージを送ることができるのが、最大の利点だ。さらに音声コンテンツはデータとして残すことでアーカイブ化でき、ほかの小学校とも交換できる。ゆくゆくはクオリティの高いものはラジオ局でも放送して欲しいと考えている。
近藤氏は、「地域防災計画だけでは、対象の範囲が広すぎて“我が事”にならないケースもある。その点を補う意味でも、地区防災計画はローカリティを豊かに保ち、住民自身が情報をカスタマイズすることが最も重要」と話している。
神戸市長田区
人口:約9万8300人
世帯数:4万7700世帯
面積:約1150ヘクタール
真陽地区
人口:約6650人
面積:約65.4ヘクタール
特徴:JR新長田駅の南東に位置し、古くからの下町の風情の残る地域。阪神・淡路震災が発生した翌年には長田区第1号の防災モデル地区として「真陽防災福祉コミュニティ」を発足させた。防コミは日常の防災活動のほか、1997年に兵庫県但馬沖で発生したナホトカ号重油流出事故や新潟県中越沖地震、東日本大震災にもボランティアを派遣するなど、さまざまな活動に取り組んでいる。
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