東京都が新たに発表した首都直下被害想定では、エレベーター被害について『強い揺れや停電等に伴い、最大約2.2万台のエレベーターが非常停止し、多数の閉じ込めが発生する』と書かれている。
東京都首都直下地震被害想定

「最大約2.2万台」―。この数字を見て、違和感を持った方はかなりの防災通であろう。平成24年の被害想定では最大7447台だった。この10年間でタワーマンションや新たなオフィスビルの建設が進んでこともあり3倍ほど増えた。しかし、2021年10月に都内で最大深度5強を観測した地震では、東京や埼玉で7万5000台が停止した。2018年6月に大阪府で震度6強を観測した地震では、近畿2府3県を中心として約6万3000台の停止が発生し、 そのうち、346台の閉じ込めが発生したとされる。今回の被害想定は都内の停止件数に限定されてはいるが、すでに大幅に上回る事態が発生していることになる。

都の被害想定を読み返せば、被害想定表には「閉じ込めにつながり得るエレベーター停止台数」とある。つまりは、この数は単に停止するエレベーター数ではなく、閉じ込めが発生する数として想定すべき数字だ。

実際に算定手法を見ると、閉じ込めにつながりうるエレベーターの停止台数の計算方法はかなり複雑で、大阪府北部地震で実際に地震時管制運転装置が作動して停止したエレベーターのうち 0.439%で閉じ込めが発生したことなどを考慮して算出されている。

ちなみに、大阪府北部地震では346件の閉じ込めの救出について87%が「3時間以内」に終えているが、最長「5時間半」を要したことが報告されている。単純に比較することはできないが、2.2万台ということは実に「60倍強」とういことになる。救出にかかる時間はどのくらいになるのだろうか? メンテナンスや保守点検要員の数は東京の方が多いかもしれないが、交通が混乱し、建物被害が多発し、そして、そもそも電話が輻輳して閉じ込めが発生していること事態が報告できない状況が続くことを考慮すれば、さらに深刻な事態も視野に入れなくてはいけない。

国土交通省住宅局建築指導課が令和2年7月にまとめた「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」でも大阪府北部地震で救出に時間を要した理由は「公共交通機関の停止や交通渋滞による現場到着遅れ」「一般電話回線の輻輳による保守員への情報伝達遅れ」と明記されている。閉じ込められていることを連絡しようにも、電話が通じなかったわけだ。

画像を拡大 国土交通省「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」

では、企業はどのような対策をすべきか。