2022/05/06
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスク
事前の対策でリスク低減
同じく2月23日には、ウクライナの防衛省・外務省・内務省などのウェブサイトがロシアからのDDoS攻撃によって停止した。被害は数百台の端末に及ぶとみられている。これらの組織は2月に英米政府がロシアの諜報機関を非難した直後からサイバー攻撃を受けており、2月13日から14日にかけての攻撃では、一部の政府機関や大手銀行などが終日停止するといった被害も発生した。この時の攻撃を受け、政府機関では緊急対応の技術者強化や、新たにDDoS対策のセキュリティ製品を導入していたこともあり、23日以降の攻撃では以前よりも影響が少なくなっている。
ここまで紹介したように、複数の手法を用いてサイバー攻撃が行われているが、10種類や100種類などのマルウェアや手法が用いられた場合、その影響はウクライナ国内だけでなく、NATO同盟国をはじめ多数の国に波及する可能性が高い。実際、ロシアが関与されているとされているランサムウェアのNotPetyaでは、世界中で脆弱性を抱えた機器が多かったために、攻撃者が意図していた標的を超えて広がり被害が拡大したという経緯もある。
犯罪グループ
ロシアによるウクライナへのサイバー攻撃は今回に始まったことではなく、従来から行われてきた。
例えば、ロシア連邦保安局FSBに関連するとされるGamaredonというグループは、これまで発電所や水道施設などの重要インフラや政府機関などへ、諜報やシステム破壊を目的とした5000回以上のサイバー攻撃を行なってきたことが判明している。そのため、2021年11月にはウクライナのセキュリティ機関であるSSUが5名の関係者を、ウクライナ刑法111条に基づいて訴追した。本件に関するレポートはSSUより公開されており*2、本稿執筆時点ではアクセス可能であるが、ウクライナ侵攻が始まった当初はアクセスすることができなかった。
また、昨年米国の食肉供給業社JBS*3、IT企業Kaseya*4はじめ日本企業なども多数被害に遭ったRevilランサムウェアグループは、米国の要請によりロシアFSBによって1月に解体されているものの、新しい動きもある。
ロシアが支援するサイバー犯罪グループのAPT29(別名、CozyBear、ノーベリウム)は、2020年末にSolarWindsを攻撃した*5ことでも有名であるが、ウクライナ侵攻とは別に直近では大使館をターゲットにし始めている。
これらの攻撃は一般の人には直接的な影響を与えないかもしれないが、潜在的な政治的影響を及ぼす可能性がある。実際に、トルコ大使館職員になりすまして、大使館や関係者などに同じ手口を仕掛けようとしていることがセキュリティ企業によって確認されている。
世界の反応
2月24日、世界的に著名なハクティビストグループのアノニマスは、ロシアによるウクライナ侵攻後、プーチン政権に対して「サイバー戦争」をTwitter上で宣戦布告した。ここでは、クレムリンや下院を含むロシア政府のウェブサイトを削除すると宣言しており、既に、ロシア国営の国際テレビネットワークRTのウェブサイトを削除したことが報告されている。
同じく24日には、ドイツはロシアを拠点としたサイバー攻撃を防ぐための体制を強化していることを発表した。また、EUは2019年に設立したサイバー・レスポンス・チームでウクライナを支援することを表明している。欧州中央銀行(ECB)からは、制裁および関連する市場の混乱が発生した場合に、ロシアによる報復のサイバー攻撃のリスクについて欧州の金融機関に警告した。
米国では、1月18日に米CISAが発行した企業に対する警告において、ウクライナの組織と関連している場合には、それらの組織からのトラフィックを監視・検査・隔離するために特別な注意を払い、トラフィックのアクセス制御を確認するよう促している。
同じくCISAからは2月、ロシアのサイバー攻撃によって米国のネットワークが影響を受ける可能性があることついて警告を発し*6、具体的な対策などについても記載している。
いくつかの主要な多国籍企業のセキュリティおよびインテリジェンスチームでは、ロシアのサイバー攻撃を想定して運用における2次および3次の影響の可能性を評価しており、一部の企業では、ウクライナの危機に関連した攻撃や詐欺の増加を予想している。
リスク評価ではまず、企業がウクライナの国立銀行やその他の重要インフラなどに直接的に関連しているかを確認する方法がある。また、対策としては次のようなことがあげられる。
1.事業継続計画を確認する。
2.サプライチェーンを綿密に調べる。
3.侵害に関連してネットワーク、ベンダー、法執行機関と積極的に連携する。
4.従業員のセキュリティ意識を浸透させる。
5.企業インテリジェンスチームとITチームがソリューションについて緊密に連携していることを確認する。
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