不足行動と過剰行動
フォーカスするものを人の「行動」に限定し、職場で起こる事故につながる危険の芽を、スタッフ一人ひとりの行動の中に発見し、安全行動に変えていく。それが「組織行動セーフティマネジメント」(BBS=Behavior Based Safety)の目指すところです。
では、ビジネスの現場において安全担当マネジャーは、メンバーのどのような行動を注視し、行動の発生をコントロールすればよいのでしょうか?
それには大きく分けて2つの種類があります。
ひとつは「不足行動」。ごく簡単にいえば、現段階では不足していて、これからメンバーに増やしてもらいたい行動のことです。職場でのミスや事故を防ぐという目的においては、それは「安全(という結果)に結びつく望ましい行動(安全行動)」といえます。
たとえば工場などの製造現場で落下物からの危険を回避し安全に作業を進めるための安全行動といえば、ヘルメットの着用などそれに当たります。「必ずヘルメットを着用」が成されていないなら、それは不足している安全行動ということです。
もうひとつの注視すべき行動は「過剰行動」です。不足行動とは逆に、「安全(という結果)を阻害する望ましくない行動、減らしたい行動(危険行動)」のことです。
望ましい結果を得るために不足行動を減らし、安全行動を増やすという取り組みは、BBSに限らず、さまざまな場面での人間の行動原理に基づいたマネジメントの基本とされています。売上アップのための適切な訪問件数、報告・連絡・相談の数、ミーティングでの発言数、学習の際の勉強時間など、「増やすことによって望ましい結果に結びつく行動」は不足行動とされ、その増加のための工夫が施されます。それらを阻害することとなるたとえば勤務時間中の私語やターゲットのずれた顧客訪問などが、減らすべき過剰行動というわけです。
増やしづらい行動と減らしづらい行動
「どんな行動を増やせば望ましい成果を得ることができるか」
「どんな行動を減らせば望ましい成果を得ることができるか」
「どうすればその行動を増やすことができるか(あるいは減らすことができるか)」
それらを考え、職場の〝仕組み〟とし、安全行動を定着・習慣化させて危険行動を排除するのが、BBSのやり方であり、。
「不足行動を増やして過剰行動を減らす」……一見単純に見えるこのやり方も、実は一筋縄ではうまくいきません。なぜなら「不足行動は増やしづらく、過剰行動は簡単に増える」という特徴があるからです。
ダイエットのためのセルフマネジメントの場合を考えてみましょう。たとえば1回だけ数分のランニングをしたとしても、あるいは1日だけ筋トレを行ってみたとしても、それが望ましい結果=体重の減少にすぐに結びつくわけではありません。望ましい結果を得るためには、行動の継続、習慣化が必要となります。一方で、望ましい結果を阻害する過剰行動はといえば……。たとえば「1回だけ間食をした」としても、確実に「おいしかった」「満足した」という望ましい結果が得られるわけです。
ビジネスにおいてもそれは同様で、たとえばセールスパーソンがある1日の訪問件数を増やしたところで、それが即自分の営業成績に数字として反映されるかといえば、そうではありません。ここでも行動を継続、習慣化させることに意味があります。
「人が行動を繰り返す、行動を定着させるのは、自分の行動が自分に『望ましい結果』(メリット)をもたらす」から」
前回お話しした人間の行動原理の基本がここに表われるのです。
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