東京都内の救急災害医療を所管する東京都福祉保健局医療政策部救急災害医療課は、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」(東京2020大会)期間中の救急災害医療業務の安定とリソース確保のため、医療機関を中心としたステークホルダーとの連携による体制強化に努めてきた。大規模イベントに対応して同課が構築した連携体制と、情報共有システム活用の動きを振り返る。

イベント救急部会を合同設置

東京2020大会に対応した都の救急災害医療業務は、「救急医療対策協議会」と「災害医療協議会」によって2019年1月に設置された合同部会「大規模イベント時における救急災害医療体制検討部会」(イベント救急部会)が軸となって動きだした。日本医科大学の横田裕行教授を部会長とする部会が構成され、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会、東京都のオリンピック・パラリンピック準備局、福祉保健局医療政策部、東京消防庁救急部が事務局を担った。

同部会では「日常の救急医療体制の確保」、「大規模イベント時の医療体制の支援」、「不測の事態(テロ・多数傷病者)への対応」の3つを活動の柱とし、(1)熱中症対策を含めた救急医療体制の確保(ラストマイル等を含む)、(2)関係機関、会場近隣の医療機関の情報共有、(3)後方医療施設の確保・病院救急車や民間救急車の活用、(4)東京DMATの活用、(5)多様な災害(テロ・NBC・雑踏事故等)のそれぞれに対応した施策を検討。2019年7月以降のテストイベントに合わせて訓練を実施し、さらなる検討を重ねていった。

周知の通り、新型コロナウイルス感染症に伴う困難な社会情勢から、東京2020大会は1年延期となり、さらに最終的に無観客開催が決定するなど、大会運営の方向性は直前まで定まらなかった。救急災害医療業務に関しても、観客の来場を想定した救護所の設置・運用のための人員確保など、検討事項を具体化していくことが非常に困難だった。

内部・外部との情報共有

イベント救急部会を中心とした検討・準備が進む中、救急災害医療課では、関係各所を連携する情報共有ツールとして、2018年から局内で運用してきたインフォコムの情報管理ポータルシステム「BCPortal」を採用することにした。

 

情報収集や共有機能を持つ情報管理ポータルシステム<イメージ図>

 

元々は、厚生労働省が開発した広域災害救急医療情報システム(EMIS)による情報共有機能を補完し、都内約650カ所の医療機関をはじめ、区市町村、消防、災害医療コーディネーターなど合計約800拠点との情報連絡体制を強化するために導入したツールだが、情報収集、コミュニケーション、情報共有の3つの目的に対応した「BCPortal」の機能が、大会期間中の局内部と外部の二方向での情報共有に有用と判断。大会期間中の運用に対応したシステム仕様を新設し、救命救急センター、東京DMAT指定病院、特定機能病院(一部病院を除く)との間で連絡体制を構築した。

既存システムの運用経験を生かす

「BCPortal」の各機能について、救急災害医療課では、大会期間中の平時と有時の両方で円滑な情報共有を実現することを期待し、十分に活用することができた。

情報収集には、質問項目を自由に作成し、入力された情報を集計できる「拠点情報入力(メールフォーム)」を用いて、救護所の活動状況を確認。医療機関から事務局への特記事項等の連絡も想定していたが、幸いにも大会期間中に連絡すべき事象は発生しなかった。

コミュニケーションを図るため、チャットによる特定メンバー間での双方向の情報交換が可能で、“既読”も確認できる「グループトーク機能」を用いて、事務局内での情報連絡・共有を行った。さらに、時系列で情報を記録する「タイムライン機能」を、事務局から都内医療機関への連絡事項等の伝達のためのツールとして利用した。有事の際には時系列での情報共有手段として活用することも想定していたが、こちらも活用の機会は訪れなかった。

情報共有のため、内外のステークホルダーと情報共有できる「掲示板機能」を、事務局から都内医療機関への情報発信ツールとして利用した。同機能では、掲載する内容や用途に応じて複数の掲示板を作成できるほか、権限設定によって閲覧制限をかけることも可能。ファイル添付もできることから、マニュアルなどの文書共有も行える。

大会期間中の運用では、気象情報や放射線量、ライフラインに関する事故の有無、福祉保健局で公表する新型コロナ感染症の発生状況などの項目をまとめた情報シートを共有した。共有の際には、先の「タイムライン機能」を使用して掲示板への資料アップロードを告知するといった工夫も行った。「試行錯誤しながら、既存のシステムを運用してきた経験が生きた」と救急災害医療課は同システムによる業務の結果に手応えを示す。

同課は今後、東京2020大会での取組・対応を“レガシー”としてとりまとめて救急医療対策協議会および災害医療対策協議会に報告し、都の救急災害医療施策に反映していく予定だ。