2022/03/03
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスク
既に多くの管理が自動化されている
このように重要インフラのサイバーセキュリティ強化に取り組んでいるバイデン政権であるが、サービスの大部分が政府ではなく民間企業によって供給されていることから課題もある。
米国では水道関連の事業者が大小さまざまでおよそ50,000社あり、およそ15万のシステムが稼働することによって3億人へのサービスを提供しているとされている。これらのシステムでは水の処理・保管・流通などの管理が自動化されており、サイバー攻撃を受けた際の影響への懸念も大きい。具体的には前述のサイバー攻撃のように、水処理のシステムへのサイバー攻撃によって、安全ではない水が供給されたりすることが懸念されている。
これらのことからも水道事業者におけるサイバーリスクは安全保障上のリスクであり、政府は企業に対して攻撃の情報を共有し、防御を強化することに協力するよう求めている。ただし、水道事業者はCISA(サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)の監督下にあるものの、エネルギー・金融・電気通信などとはことなって小規模の事業者も存在している。そして、小規模の事業者には当てはまらないこともある。
ただし、既に展開されている電力事業者や天然ガスパイプライン事業者に向けた計画同様に、このイニシアチブへの参加は任意とされているが、150以上の電力会社が参加して既に追加のサイバーセキュリティに取り組んだか、取り組んでいる過程にある。
水道事業者に向けたイニシアチブでは、人口の多い地域のシステムほど影響を受ける人が多いため、そのような地域のシステムから始めるとしている。
水に流そう…とはならない
それでは最後に、この「行動計画」の内容に触れてみたい。
この取り組みの主な目的は2つ。
・インシデントの早期発見をできるようにすること
・脅威情報の政府との共有を促進すること
これらを実現するために、サイバーセキュリティを適応させていくことだ。
また、水道事業者に向けた取り組み固有の内容としては、既に監視技術を導入している水道事業者を関与させていくことが含まれている。
天然ガスパイプライン事業者に向けた取り組みではTSA(運輸保安局)によって発行されたサイバーセキュリティ指令の対象となっているが、水道事業者に向けた取り組みは基本的なサイバーセキュリティ要件を満たすといったところに限定している。
天然ガスパイプライン事業者に向けたサイバーセキュリティ指令は、当局の自主的なガイドラインに照らしてその慣行を分析することを要求する指令と*5、機密性の高い情報であるため*6非公表とされている指令との2つで構成されている。
しかし、この指令を発行するにあたって事前に議会へ共有されなかったため、その動機とプロセスについて国土安全保障省および政府問題委員会のメンバーであるロブ・ポートマン上院議員が調査を依頼し*7、TSAとCISAは利害関係者や専門家からの十分なフィードバックを考慮せず、要件には柔軟性が欠けているとも指摘している。
不特定多数が情報にアクセスできることによって、その取り組みが骨抜きになる可能性もあり、痛し痒しといったところだろう。
重要インフラ事業者に該当しないからといって、インシデントの早期発見ができなくても良いというわけにはいかない。民間企業でも厳しい要件を求められる重要インフラ事業者の取り組みも、大いに参考としていかれると良いだろう。
インシデントに気付くのが遅かったことは、水に流そうとはならないのだから。
出典
*1 サイバーセキュリティを単なるコストセンターにはしない
*6 https://www.tsa.gov/for-industry/sensitive-security-information
本連載執筆担当:ウイリス・タワーズワトソン Cyber Security Advisor, Corporate Risk and Broking 足立 照嘉
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