新型コロナの長期化による働き方の変化が健康経営に大きな影響を与えている(写真:写真AC)

本連載でとり上げる健康経営は、1990年代に米国でその考え方が広がったものですが、日本においても2000年代以降、多くの企業が取り組むようになっています。

従業員の健康管理や増進に投資することによって、そのパフォーマンスが向上し、成果が上がる、そして結果として企業の業績やイメージもよくなるという好循環が起きるという考え方ですが、新型コロナウイルス感染症の流行が長期化したことにより、企業は健康経営に大きな影響を与える変化に直面しました。それは、働き方の変化です。

例えば、感染から従業員を守るために多くの企業が導入した、在宅勤務を中心とするテレワークが、この働き方の変化に該当します。

在宅勤務の導入の主な目的は、接触回避によって感染リスクを低減することですが、それに加えて、通勤や顧客訪問などの移動時間がなくなり労働効率がアップするなどの副次的な効果も見られました。

しかしその一方で、在宅勤務中のコミュニケーション不足によるメンタルヘルスの悪化のように、健康経営の観点からは放置できない課題も見えてきました。

1.健康経営を考える

(1)健康経営とは何か

健康経営は「健康経営の推進について」(令和3年10月、経済産業省・ヘルスケア産業課)において、次のとおり定義されています。

健康経営とは、従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること


企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上につながると期待されています[図1]。

健康経営では、人的資源、つまり従業員への健康投資を行いますが、その具体的メリットは、次のとおりと考えられています。

・従業員の健康増進と活力向上
・経営課題解決に向けた基礎体力の向上
・組織の活性化と生産力の向上
・イノベーションの源泉の獲得・拡大
・業績向上と企業価値向上 など

(2)健康経営が注目された背景

健康経営が注目され、多くの企業が取り組みを進めてきた背景として、少子高齢化による生産年齢人口の減少があります。

高齢化の推移と今後の予測をみると、生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8716万人をピークに減り始め、その傾向は今後も続きます。今から約40年後の生産年齢人口は、約4793万人となり、2020年のおよそ64%まで減少すると予測されています[図2]。

企業活動の観点から考えると、人手不足が深刻化するとともに、従業員が高齢化により病気で働き続けられなくなるリスクも高まります。また、高齢化による医療費の増加で企業の社会保険料負担が増えることも起こり得ます。

このような高齢化の状況を背景に、企業は、確保した人材に長期間、心身ともに健康で働いてもらうことが極めて重要であるとの考えに至り、健康経営に取り組んでいます。