「ITx災害会議」2015開催 ITx災害

日ごろはITのプロフェッショナルとして活躍する人たちが、減災や復興のために組織や立場を超えて集まり、知恵や情報を共有し、これからを考える場として2013年に開催された「ITx災害会議」。その第3回となる会議が、2015年11月25日に情報システム研究機構・統計数理研究所(東京都立川市)で開催された。昨年のテーマは「つながりxひろげる」。約120人の有志が参加し、ITと災害対応の可能性を探った。「ITx災害会議2015」のホームページは http://2015.itxsaigai.org/

会議は、午前中は全員参加のセミナー形式で実施された。今回の会議を共催した統計数理研究所のモデリング研究系潜在構造モデリンググループ教授の丸山宏氏から、東日本大震災を機に同研究所でスタートした「システムズ・レジリエンス」について説明があった後、これまでの「ITx災害会議」の取り組みと、そこから発生した活動として災害急性期をITで支援する「情報支援レスキュー隊(IT DART)」(http://itdart.org/)について代表理事である及川卓也氏が発表した。「情報支援レスキュー隊は、第1回の会議の時に議論したところから始まった。東日本大震災の時、特に災害急性期に被災地に対して私たちは無力だった。被災地からの正しい情報を共有することで、ボランティアやNPOの支援に結びつけることはできないかと考えた」(及川氏)。日本DMAT(災害派遣医療チーム)の活動からヒントを得たというこの取り組みは、災害の急性期における被災現場での情報収集、活用、発信を目指し始まったもので、昨年8月には一般社団法人としてスタートを切った。現在、ホームページでは会員・隊員を募集している。

IT×災害のこれまでの取り組み

続いて、同じく第1回会議から派生した「減災インフォ」、「減災ソフトウェア開発に関わる1日会議」の取り組みについて、それぞれの代表である小和田香氏、江渡浩一郎氏が発表した。

「減災インフォ」(http://www.gensaiinfo.com/)は、東日本大震災や、その後に起きた大島土砂災害、山梨県の大雪災害などの経験を経て、後方支援での情報発信に特化した活動で災害被害を減らす取り組み。昨年6月にホームページを開設し、本格的な活動を開始した。平時は自治体のTwitter活用状況を分析するほか、ネパール大震災、常総市水害などに対する適切な情報発信などにつとめ、その取り組みは年10月に発表された「マニフェスト大賞」(主催:マニフェスト大賞実行委員会、共催:早稲田大学マニフェスト研究所、毎日新聞社)で復興支援・防災対策賞を受賞している。

小和田氏は「東日本大震災で被災した自治体は37あったが、震度6以上の南海トラフ地震では、およそ707自治体が被災するといわれている。現地には入らずとも、ITで後方支援する団体が必要なのではないかと考えた」とする。

メディアアーティストであり、現在は国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員をつとめる江渡浩一郎氏は「減災ソフトウェア開発に関わる1日会議」の活動について、「東日本大震災後、ボランティアでソフトウェアを活用し、減災に取り組む人を結び付けようと考えて活動を開始。現在は年に一度、さまざまな分野のキーマンを探し出し、アンカンファレンス※方式で会議を開催している」と話す。昨年は10月3日に慶応義塾大学総合政策学部の井庭崇准教授を招き、都市計画作成やソフトウェア開発で用いられる「パターン・ランゲージ」という理論を用いて減災に取り組む「サバイバル・ランゲージ」づくりに参加者全員で取り組んだ。

□井庭研究室の「サバイバル・ランゲージ」
http://ilab.sfc.keio.ac.jp/survival/

※アンカンファレンス…講演者の話を聞くセッションの形態とは異なり、参加者自身がテーマを出し合いそのテーマについて自分たちで話し合い、参加者全員で作るカンファレンス

ITと災害支援の過去・現在・未来

午前中の後半は、「災害支援の過去・現在・未来」と題し、「ふんばろう東日本支援プロジェクト」代表の笠原正好氏、茨城県広報監の取出新吾氏らがプレゼンした。

笠原氏は東日本大震災時、必要な場所に必要な物資が届いていないことから、チームを作って物資支援を開始。アマゾンの「ほしい物リスト」の活用や、自治体が受け取って余っていた大量の物資を必要な場所にマッチングするなど、合計で約70万個の支援物資を必要な被災者のもとへ届けた。現在はそのノウハウを生かし、広島土砂災害、大島土砂災害からネパール大地震まで幅広く災害支援を行っているという。

取出氏は、昨年の関東・東北豪雨で「情報支援レスキュー隊」のボランティアとして出動。「守谷市は知り合いがいたため情報が入りやすかったが、常総市にはつてがなかったために入りにくかった。地元に協力してくれる隊員が必要だと感じた」と振り返った。

午前中の司会進行役を務めた京都大学防災研究所准教授の畑山氏満則氏は、これからボランティア支援に行く際に気をつけなければいけないこととして、「被災地では、ITによる効率を求めてはいけない場面もある。例えば被災者と行政の会話。これは復興に重要なプロセスなので、時間を削るようなことをしてはいけない。一方で、ITには防災や災害対応のやり方を根本的に変える可能性がある。ひるむことなくチャレンジしていきたい」と話した。

午後は複数の会場に分かれ、個別のセッションが実施された。「支援システムと仕組み」「国・自治体・市民のIT連携」「災害時のツイッター活用を考える」「災害支援ツールの体験」などのカテゴリーのなか、参加者が興味のあるセッションに自由に参加する形式。減災とITについて活発な議論が展開される1日となった。

230年間伝えられた教訓

群馬県吾妻郡嬬恋村の鎌原という地域では、天明4年(1783年)に発生した浅間山の噴火による、いわゆる「天明の大噴火」について、およそ230年経過した現在でも遺族は毎年供養を欠かさず、さらに鎌原観音堂では毎日のように当時のことを語り部がうたい、伝えているという。おそらく日本で最も長い災害教訓の継承活動だ。会議の終了に際して、IT×災害会議の発起人の1人である会津泉氏はこの事例を引き合いに、「3回目の今回までは勢いでできた。しかしここからは持久戦になる。教訓や原点を忘れず、前向きに前進していこう」と話し、長い1日を締めくくった。