国立研究開発法人防災科学技術研究所理事長の林春男氏と、関西大学社会安全センターセンター長の河田惠昭氏が代表を務める防災研究会「Joint Seminar減災」(事務局:兵庫県立大学環境人間学部教授 木村玲欧氏)の2021年第1回シンポジウムが4月30日に開催された。テーマは「東日本大震災から10年、地震学の進展と課題」で、東京大学大学院情報学環教授の酒井慎一氏が講演した。3回に分けて講演内容を紹介していく。第3回は、余震の定義や、余震の計測から分かることについて。

本研究会は、防災科学技術研究所「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」および、セコム科学技術振興財団「幅広いステークホルダーの防災リテラシー向上を目指す「防災・減災教育ハブ」の構築」の成果・研究費の一部を利用して実施しました(双方とも担当者は木村玲欧)。厚く御礼申し上げます。

ZOOMで講演する酒井氏

 

大阪府北部地震の反省と臨時余震観測

最後は余震の話をしたいと思います。2018年6月18日の朝、大阪府北部地震が発生しました(図表1)。マグニチュードは6.1とそれほど大きくありませんが、震源に近い場所の震度は6弱で、東京でも揺れを感じるほど広い範囲で揺れた地震でした。

このときブロック塀が倒れるなどして6名が亡くなりました。その後、ブロック塀の改修を怠っていたことが問題視され、各地でブロック塀の点検・改修が行われました。しかし、ブロック塀が問題になったのはこのときが初めてではありません。最初は1978年の宮城県沖地震のときで、そこから地震が起きるたびにブロック塀の問題が話題になりました。熊本地震のときにもありました。

私が言いたいのは、ブロック塀を早く直せということではなく、誰もが危険性を認知できたにもかかわらず放置してきたことが問題だということです。大阪府北部地震で倒れたブロック塀は学校のもので、通学路に面していました。そのような場所にこういうものが残っていたことが私としては非常に不思議です。先生も保護者も毎日通っているのに、誰も「危険だから何とかしろ」と言わずに放置されていました。そういうものは恐らく世の中にたくさんあるのだと思います。

大阪府北部地震で震度6弱の揺れがあり、被害が発生し、私はすぐに現地に行って地震計を置きましたが、そのとき現地の人に「大阪では地震が起きないと思っていた」と言われました(図表2)。1995年の兵庫県南部地震のときも同じようなことを言われました。関西地方は関東に比べて、地震が少ないという感覚があるようです。数えると実際に少なくて、過去50年間で大阪府で震度1以上の地震は約700回、東京都は小笠原諸島を含めて約2万4000回、23区だけだと約3000回起きていて大阪府の約4倍です(図表3)。和歌山県は小さな地震が頻繁に起きているので東京都と同程度ですが、関西の他の県は非常に少ないので、やはり危機感が低い印象を受けます。


 われわれ研究者としては、大阪府北部地震がどんな地震なのかということに興味があります(図表4の星印)。図表5は、過去20年間で起きた地震の場所です。地震は、そこかしこで起きているわけではなく、起きている場所には疎密があります。例えば、南西方向に並んでいるのは兵庫県南部地震の余震で、北西方向に並んでいるのは山崎断層に関係する活動、南に集中しているのは和歌山市の地震、北に集中しているのは京都北部の地震活動です。

近畿地方には活断層がたくさんあります(図表6)。その中のどれかが大阪府北部地震に関係したのだろうと思いますが、先ほどの絵と重ねると、大阪府北部は有馬―高槻断層帯と生駒断層に近いです(図表7)。クローズアップしたものが図表 8です。高槻市の真下で起きた地震ですが、分かっている活断層と直接つながっているようには見えません。ちょうど活断層と活断層の間で起きています。われわれはこの地震がどのようなものなのか詳しく知りたいので、100台以上の地震計を使って臨時観測を行ってきました。


 

そもそも地震は、岩石に力が加わわって発生しますが、断層面の状態や周囲の環境等いろいろな条件が関わって発生します。地震が起きそうになると何かが変わるはずですし、起きた後も何かが変化しているはずです。それを知るためには、地震が起きる場所のなるべく近くで、情報を得る必要があります。そのため、図表8の赤い三角印の場所と、さらにその周りの100点ぐらいに地震計を置いて余震観測を行いました。