東京都中小企業振興公社は1月28日、「コロナ危機を生き抜くBCPの運用方法」をテーマとするBCP策定推進フォーラムを都内で開催した。

第1部では、株式会社東京商工リサーチ情報本部情報部部長の松永伸也氏が基調講演を行ったほか、新建新聞社リスク対策.com編集長の中澤幸介氏が感染症を考慮したBCPについて解説した。第2部では、大成化工株式会社代表取締役社長の稲生豊人氏、株式会社マルワ代表取締役社長の鳥原久資氏、株式会社生出代表取締役社長の生出治氏の3者が事例発表を行なった。シリーズで、講演内容を紹介していく。第3回は、大成化工株式会社代表取締役社長の稲生豊人氏の発表を取り上げる。

 

社員を守りながらの企業成長の道
 

当社は、大成ホールディングス(東京都葛飾区)のグループ会社です。当社グループは、設立から96年、創立から107年になります。

グループ会社としてのBCP策定の取り組みは、大成ファインケミカル(千葉県旭市)で2009年に震災、2012年にはインフルエンザのBCPを作成しています。BCPで対応を想定することで、被災時に想定外の対応に集中できるというメリットは、これまで震災や台風、そして今回のパンデミックと肌で感じてきています。

当社大成化工は、顔料分散と機能性コーティング材の開発・製造・販売および受託加工の事業を行っています。危険物の化学工場で、特に第五類という自己発火するような危険なものを扱っています。事業所は千葉県成田市にあり、従業員は39名です。

当社は、昨年までBtoBの中間材をお客様1社に対し1仕様として開発・供給させて頂いておりました。ところが、コロナ禍で受託や開発テーマが中断し先行きがみえなくなり、3月には既存の売り上げも激減。お客様ごとの特殊仕様で横展開することができず、自力での売上拡大ができない中で、ゼロベースからコスト削減活動を始めましたが、コスト削減だけでは、経営の維持に限界がありました。未知のウイルスへの恐れもあり、お客様への貢献と、社員とそのご家族を守るという両立の問題は、経営的に非常に悩むところでした。

しかし、BCPのパンデミック対策に加えて様々な工夫をしながら、5月ごろから、今までの全ての枠を取っ払い、当社の強みを生かしてできることはないかと全社で考えました。新しいお客様に対する売上拡大、コストを削減しながらも生産性を伸ばす方法です。その結果、「営業」と「製造」での固定観念からの突破が実行できました。

「営業」の突破は、中間原料の枠を飛び出し、商品事業をやってくことです。中規模までの数量で出来ることがないだろうかということで、最終的には除菌アルコールを介護施設、病院、学校の皆さんに業務用としてお届けするに至りました。消毒液の個詰めができる機械や販売ルートもありませんでしたが、強みとして、化学の原料の調達や配合ができる。事業所が関東ですので、人口の多さという地の利の強みもあります。販売の工夫をした結果、現在では1200件ほどのお客様に販売をさせていただいています。

一方、「製造」の突破では、チームをA、Bの2班に分け、8時間労働を10時間での週休3日とし勤務曜日を分けました。その結果、社内の接触は15%ほど減り、製造の2班では9割方の接触が減りました。生産性の面では、8時間から10時間にすることで残業がほぼなくなり、時間あたりの生産が115%上がりました。また、土日稼働をすることによって設備の稼働率が上がり、新たな設備購入の必要がなくなりました。リスクを回避しながら生産性を上げ、販売品目に対応する体制ができたということです。