第7回:捨てるか生かすか、それが問題だ(適用事例1)
備蓄管理における解決策を探る
BCP策定/気候リスク管理アドバイザー、 文筆家
昆 正和
昆 正和
企業のBCP策定/気候リスク対応と対策に関するアドバイス、講演・執筆活動に従事。日本リスクコミュニケーション協会理事。著書に『今のままでは命と会社を守れない! あなたが作る等身大のBCP 』(日刊工業新聞社)、『リーダーのためのレジリエンス11の鉄則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『山のリスクセンスを磨く本 遭難の最大の原因はアナタ自身 (ヤマケイ新書)』(山と渓谷社)など全14冊。趣味は登山と読書。・[筆者のnote] https://note.com/b76rmxiicg/・[連絡先] https://ssl.form-mailer.jp/fms/a74afc5f726983 (フォームメーラー)
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■あり得ない!とはまさにこのこと
Tさんの会社では、2011年の東日本大震災以降、万が一に備えて非常用食料を備蓄するようになりました。顧客や取引先からは防災意識の高い企業として一目置かれているのですが、フタを開けてみればなかなか苦労することが多いのです。
同社のBCPには「非常時には社内にストックしてあるインスタント食品を帰宅困難者に提供すること」と記載されていますが、非常時に確実に備蓄品を分け与えられるかどうかはまったくもって未知です。というのは、非常用備蓄とは言いつつも、それは以前から従業員用に買いだめしておいたカップラーメンのことにすぎなかったのです。
カップラーメンが備蓄品として“認定”されるまでは、いつでも誰でも小腹がすいた時に段ボールから取り出して食べることができました。たまに段ボールをのぞいてみて「だいぶ減っちゃったねえ…」と思ったら、総務に頼んでまた1箱注文して取り寄せる。その繰り返しでした。ではBCPの備蓄品として認定された後はどうなのかと言えば、「備蓄とみなすには少し少なすぎやしないか?」ということで、いつもは1箱ストックしてあったものを2箱に増やしただけです。数量や消費の管理がかなりアバウトであることは、これまでと何ら変わりありません。
ある日の夕方、Tさんは「仮にいま大地震が起こって、社内にいる社員たちが帰宅できなくなったら、現在の備蓄で足りるだろうか?」との疑問を抱きました。給湯室へ行ってカップラーメンの入った段ボール箱を覗いてみると、なんとそこには1箱は使い切り、残りの1箱にはカップラーメンが数個残っているだけだったのです。
「ありえない…ダメだこりゃ!」。Tさんは落胆しました。
■帰宅困難者を栄養失調にさせないために
ここはひとつ、きちんとルールを整備して、帰宅困難者がいつでも安心して非常時備蓄の提供を受けられる仕組みを作っておかないといかんなあ。Tさんはこのように決意し、PDCAで解決することにしたのです(ここでは食料と水を中心に考え、毛布や簡易トイレ等については言及しないものします)。
Tさんはまず、プランの作成に先立って、各部署に備蓄品の現状に関するアンケートをとりました。「カップラーメンだけではカロリー不足。帰宅困難者が栄養失調で帰宅できなくなったらどうする?」「管理の仕方がお粗末」「平時には給湯室で湯が沸かせるが災害が起これば使えない」など、様々な意見が出ました。そしてこれら現状の問題点を踏まえ、次のようにプランを作成しました。
【目標】「備蓄品目と数量の適正化及び保管方法の標準化」です。シンプルな目標ではありますが、ここにはいくつかの下位の目標が織り込まれています。これらについては、次の「解決策」で具体的に実現することになります。
【目標を達成するための対策】PDCAの「Do」と「Check」で実行・評価・検証する内容です。次の3点を考慮して行うことにしました。
・品目と数量の見直し(現行のままでは非常時に不足する可能性が高い)
・更新管理方法の確立(備蓄品の補充・入れ替え時期、ムダにしない処分方法)
・保管場所(安全かつ取り出しやすい場所)の選定と備蓄品管理担当の決定
これらはいずれも短期間に完了できるものですが、単に3つの作業項目を終えたというだけでは「Check」で評価・検証することはできません。本当の「Check」は、備蓄品が適正に管理されているかどうかを1年かけて追跡し、その結果を標準的な手順として採用できるかどうかにかかっているからです。
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