2018/01/26
編集長コラム「うラかたの日々」

今年から書き始めたこのコラム。本来であれば、防災や危機管理に関するゆるいネタを少しづつ紹介しつつ・・などと思っていたのですが、なかなかそうも行きません。1月23日、群馬県北西部にある草津白根山が噴火。噴火による噴石や、同じころに発生した雪崩などで自衛隊員1人が亡くなり、11人が負傷しました。亡くなった方には心からご冥福をお祈りするとともに、負傷された方は1日も早く日常を取り戻せますよう祈念申し上げます。
さて、本件に関しては現在も様々な検証が各種のメディアでなされているのでそちらを待つとして、危機管理として今後気になるのは風評被害です。草津町は皆さんもご存じの通り関東きっての温泉街。今回の噴火で客足が途絶えてしまうようなことがないようにしなければいけません。
草津町ではHPに現在の状況をアップし、町長の黒岩信忠氏の署名で温泉街には影響がないことを報告しています。
http://www.town.kusatsu.gunma.jp/www/contents/1516837573817/index.html
草津本白根山噴火に関し、不安とご心配をお掛け致しております。
報道にある通り3000年以来の噴火と言われております。噴火により噴火警戒レベルが3になりましたが、本白根山と草津温泉街は5キロメートル以上離れており、全く温泉街は危険が及ぶ位置にありません。当然のことですが、草津町長として噴火口周辺を暫定的に2キロメートルの立ち入りを禁じていますが、その範囲以外は危険はありません。この度の噴火の被弾距離約1キロメートルと推定しております。
火山噴火はマグマ噴火、マグマ水蒸気噴火、水蒸気噴火と分類されますが、今回の草津本白根山で発生しているのは水蒸気噴火とされ、マグマが噴出し温泉街に到達するような事はありえません。また、一部報道で言われている融雪泥流の問題は火山の種類から考えられません。
すでに本日1月24日より天狗山スキー場、御成山スキー場は営業を再開します。また、殺生クワッドリフト、青葉山ゲレンデの営業も近日中に行う予定です。
なお、草津白根山の噴火レベル1の変化はありませんので、志賀草津高原ルート(国道292号)は関係者との協議を行いますが4月に開通を予定しております。
草津町は情報収集を行いサイエンスの観点から対応しておりますので、安心して草津温泉にお越し下さい。
平成30年1月24日 草津町長 黒岩 信忠
このような時に重要なのがリスクコミュニケーションです。町長名の状況報告は非常に有効な手段ではあるものの、メディアにあふれる風評被害を一掃するのは少し難しいかもしれません。
ここでは、同じような状況に陥った長野県白馬村の取り組みが参考になるのでご紹介します。白馬村は、2014年11月22日の新城断層地震で村が大きく被災。白馬村は非常に防災意識が強かったため、幸いにして死者はでなかったものの536棟が被害に遭い、多くのメディアが倒壊した家屋をクローズアップしました。
白馬村では地震の直後からコミュニケーションを開始。FBなどのSNSも使い、被害状況を伝えるとともに観光施設のスキー場、宿、飲食店、お土産物屋などの施設がどういう状況であるかをつぶさに報告していきました。さらに地震の4日後には車にカメラを積み、被災地などを回って録画した映像をYouTubeに掲載。あるがままの姿を見てもらうことで、不安の払しょくに勤めました。当時の記事にはこうあります。
■風評マネジメントで観光を立て直す。地震後も積極的に観光情報を発信!
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1964
さらに白馬村はYahoo!と連携し、3人のライターを村に招聘。内容には一切口をださず、あるがままを書いてもらうことで信頼性を高めたと言います。ここで大事なことは、「良いことも悪いことも、包み隠さず」コミュニケーションをとることです。良いことだけを言っても、受け手は信用できません。「ここは安全、こちらは危険」と、できれば映像も見せながらハッキリさせていくことが必要です。
こうした努力の結果、その冬の白馬村のスキー場の利用者数は八方尾根スキー場が2%減、岩岳が2.1%減にとどまったそうです。実は隣の村は状況がほぼ同じであったにもかかわらず、観光客が12%減だったということからも、このリスクコミュケーションは成功だったと言えるでしょう。
ぜひ、草津の方々も積極的にリスクコミュニケーションを図り、風評被害に打ち負けないようにしてほしいと思います。
というわけで、近いうちに遊びに行こうかな♪
(了)
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