ゴールに近づくための「SMART」を知りましょう(出典:写真AC)

■解決の道筋はつけたけれど…

目標に向かってあれこれ一生懸命やってみたが、結果は意外と実り少ないものだった…。こんな経験はありませんか? 仕事でも学業でも、ばくぜんと目標を決めただけではすんなりとゴールにたどり着けないことも少なくありません。

このことは、事業継続管理などというなじみのない業務の問題・課題の解決に取り組もうという場合には、なおのこと気をつけなければならない点であります。この部分を少しでもスムースにクリアするためのツールとして「なぜなぜ分析」が役立つこともありますし、メンバーを募ってのっけからブレーンストーミングで解決のアイデアを探り出すこともできるでしょう。

ところが、せっかく問題の原因をつきとめ、その対処方法や解決策が見えてきたとしても、それを右から左に実行しただけではPDCAのDoやCheckが確実にうまくいくという保証はどこにもありません。冒頭で述べた「ばくぜんと目標を決めただけではすんなりとゴールにたどり着けない」とはそのような意味なのです。

そこでこの「目標」に、成功のためのより確かなホールド(手掛かり)とスタンス(足場)を設けておくと安心して取り組むことができます。今回ご紹介する「SMART」は、まさにそのニーズに打ってつけの方法。「SMART」とは、目標に向かって何を、どこまで、どのように取り組めばよいのかを"見える化"し、迷子にならないように確実にゴールにたどり着くための枠組みです。

■SMARTの要素を詳しく―「S」と「M」と「A」

「SMART」は5つの要素の頭文字をとってつなげた言葉です。ここでは前半部分の3つ―「S」と「M」と「A」について説明しましょう。

S(Specific)
Specificは「具体的に」「何を目指し、いつまでにどのように実行するのか明確になっている」という意味です。この点があいまいだと、動機やモチベーションが薄まってしまいます。例えば何かの資格を取るぞと決めたら、その資格を取るのに必要な学科の種類・勉強法・学習期間・学習スケジュールなどを組み立てます。

M(Measurable)
Measurableは「測れる」という意味です。いくら一生懸命がんばっても、そのために費やした時間やお金、どこまで進展があったのかなど「目に見える効果」が皆目分からないと困りますね。うまくいっているのか停滞しているのか、どこまで達成すれば成功でどこまでを満たさないと失敗なのかを可視化するためにも、これらを定量的、定性的に把握できるように工夫しましょう。

A(Achievable)
Achievable=「現実的に達成できる」、つまり絵に描いた餅では困りますよという意味です。ただし、今の自分たちの能力やスキルを生かして取り組んでみて、手ごたえが得られるレベルでなくてはなりません。高すぎる目標はやる気をなくすだけだし、低すぎる目標は手ごたえが乏しくて、結局あとで後悔する羽目になるでしょう。

■SMARTの要素を詳しく―「R」と「T」

こちらはSMARTの後半部分の要素、「R」と「T」についてです。

R(Relevant)
Relevant=「適切・妥当・目的に適っている」という意味です。少し漠然とした意味ですが、次のように自問自答すると分かるでしょう。今、自分(たち)が解決しようとしている問題や達成しようとしている目標について、「実行する価値があるか?」「実行するのは今でよいか?」「結果やニーズにマッチしているか?」「自分(あるいはメンバー)はこの目標を達成するのに相応しい人か?」といったことです。

時としてPDCAでやっていることが的外れになったり、頓挫するケースが起こったりしますが、この要件をしっかり確認することで、こうしたアクシデントは防ぐことができるでしょう。なお、頭文字の「R」の意味を「Result-oriented(=結果重視)」とする考え方もあるようですが、少し短絡的なニュアンスがあるので、ここではRelevantの意味で説明しました。

T(Time-bound)
Time-bound=「期限が設けられている」という意味です。これはもはや説明は不要ですね。どんなに時間をかけてもよいからゴールにたどり着けばそれでOKですよ、というのは、目標を設定しないのと同じです。制限時間内にやり遂げるところに目標達成の価値と意義があるわけですから。

制限時間を設定すれば、いつまでに何をやればよいかが見えてきます。複数の作業ステップに優先順位をつけることができます。最終ゴールまでの期間をいくつか区切って小さな達成目標を設定し、その積み上げで大きな目標を達成することもできるのです。

■多くのメリットと多少のデメリットも意識しておこう

ここで「SMART」のメリットとデメリットを整理しておきましょう。

SMARTを意識して計画を練ることで、目標に向けていつまでに何を達成するのか、そのためには何をどこまでやらなければならないのかが一目で分かるようになります。そして、達成指標の見える化によって、要所要所での自分の達成段階(登山に例えるなら今自分は何合目にいるのか)が把握できるので、達成意欲やモチベーションの維持につながるでしょう。

またこれまでの説明からも分かるように、「SMART」は参考書を読んだりトレーニングを受けたりしながら、その知識やテクニックを身に付けるようなたぐいのややこしいツールではありません。どんな人も、これをちょっと役立ててみようと考えたなら、いつでもひょいと適用できるツールなのです。筆者がPDCAのP(Plan)の部分をなるべく合理的に組み立てるためにSMARTをご紹介したのもそうした動機からです。

ちなみにここでは業務のことを中心に述べていますが、個人のプライベートな目標設定にも十分役立ちます。例えば試験勉強や少し気合の入った海外旅行など。もしこれまで試験に何度か失敗した経験や、海外一人旅をしようと心に決めていながら、なかなか実現しなかった経験などがあれば、それを思い出してみてください。

それらの失敗理由を推し量れば、おそらく目標や達成期限があいまいであったり、高望みしすぎたからではなかったでしょうか。そんな過去の出来事にSMARTを当てはめてみて、「ああ、あの時きちんとSMARTを意識して目標や計画を立てていれば、もっと早く達成できたのになあ」と思うかもしれません。そんな時は迷わず手帳の目立つところに「SMART!」と書いて、今後の目標や計画の立案に役立ててみることをお勧めします。

なお、最後に少しだけ「SMART」のデメリットと考えられている点について触れておきましょう。それは、SMARTは短期の目標には使えるが、長期の目標に当てはめると見通しや融通が効かなくなってしまうといった意見です。しかしこのスピーディな時代、多くの問題や課題は比較的短期(1年未満ぐらい)のケースが多いので、PDCAのプランのステップにSMARTを適用することは何ら問題ないと考えます。

次回からは、事業継続管理における典型的な問題や課題をPDCAで解決していきます。乞うご期待!

(了)