第5回:<Why?>を繰り返すと根本原因が見えてくる
「なぜなぜ分析」とは何ぞや?
BCP策定/気候リスク管理アドバイザー、 文筆家
昆 正和
昆 正和
企業のBCP策定/気候リスク対応と対策に関するアドバイス、講演・執筆活動に従事。日本リスクコミュニケーション協会理事。著書に『今のままでは命と会社を守れない! あなたが作る等身大のBCP 』(日刊工業新聞社)、『リーダーのためのレジリエンス11の鉄則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『山のリスクセンスを磨く本 遭難の最大の原因はアナタ自身 (ヤマケイ新書)』(山と渓谷社)など全14冊。趣味は登山と読書。・[筆者のnote] https://note.com/b76rmxiicg/・[連絡先] https://ssl.form-mailer.jp/fms/a74afc5f726983 (フォームメーラー)
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■どのステップが最も重要か?
前回は、日常業務のなかからPDCAが適用されているいくつかのテーマをご紹介し、事業継続管理の中にもこうした日常業務と同じようなテーマが眠っているはずだから、それを意識してください、といったことを述べてまいりました。
さて、今回から実践編に入ります。日常業務と同じレベルの事業継続管理のテーマとはいかなるものなのか。どのようにしてPDCAを回すのか。それをストレートに語りたいところですが、実はその前にもう一つ決着をつけておかなければならないポイントがあります。これをクリアしないことには先へは進めません。なかなか核心部に迫ろうとしない著者にややヘキエキぎみの皆さん、もう少しご辛抱ください。
そのポイントとは、「PDCAの中でとくに重要なステップについては、ブレのないようにしっかり足固め、地ならしをしておきましょう」ということです。ではどのステップが重要なのか。PDCAの発案者、デミング博士は「Check」のステップ、つまり評価や検証のステップが最も重要なのだと申しております。単に結果の良し悪しを判定するのみならず、前に戻ってもう一度やり直すか、このまま先へ進むかの大切な瀬戸際ですから、入念な考察や精査が必要なわけです(博士がこのステップを「Check」ではなく「Study」と呼んでいることは前に述べたとおりです)。
博士の指摘はとても大切なことですが、翻って筆者の考えはどうなのか。Checkが重要であることは言うまでもないこととして、それに先立つ「Plan」もまた、Checkに劣らず大切であろうと考えております。何しろPlanで正しい方向に照準を定め、何をどのように達成するのか明確にしておかないと、計画倒れになってしまいますからね。ここはきちんとしておかなければなりません。
■後悔しないPlanを組み立てるための2つのツール
では、「Planで正しい方向に照準を定め、何をどのように達成するのか明確にしておく」とは如何なることを指すのでしょうか。
一つは、目の前の問題を解決すべく、その根本的な原因を探り当てることです。前々回の「X商品の売上倍増計画の立案を命じられたA君」のケースに例えると、「発売したばかりのX商品の売上が伸びないのはなぜか?」を究明することです。
A君は「Xが売れないのは商品知名度が低いからではないか」との仮説を立てることで、売れない原因の見当をつけたわけですが、本来ならば独りよがりな判断ではなく、もう少し突っ込んで、なるべく客観的に究明する必要があるでしょう。そのためのツールとして有効なのが、今回ご紹介する「なぜなぜ分析」による原因の特定と解決策の立案です。
問題の原因を特定し、解決策がある程度固まったら、次は最も肝心な「目標設定」の出番です。漠然と実行したら「Check」がうまくいかないことは明々白々です。どこまで効果があったのか、どこでつまずいたのか、失敗の原因はどこにあるのかを評価、検証するためには、目に見える指標を用意しておくことが大切。そのためのツールが次回ご紹介する「SMARTによる目標の設定」です。
因みにX商品のケースでは、商品紹介を依頼した人気ブロガーのファン8000人がそのままX商品の見込み客であり、売上8000個が期待できると見込んで目標を設定したところにムリがありました。このあたりはなるべくリアリティと根拠の確かな数字を設定したいものです。
■「なぜなぜ分析」とは何ぞや?
さて「なぜなぜ分析」のお話。これはトヨタ自動車が教育の一環として従業員に身に付けさせている分析手法です。何か問題に直面した時に、「なぜそうなるのか?」を5回繰り返すことで根本的な原因まで掘り下げることができるというもので、現場の社員が合理的かつ的確に原因を特定できるように考案されました。
なぜなぜ分析は、品質改善やトラブルシューティングその他の問題解決に生かされますが、どんな問題・課題にも万能というわけではありません。初めて提起された新種の問題や課題は「なぜ?」では問えませんし、あまりに複雑でややこしい問題は、その性質や規模に応じてもっと別の方法を試す必要があるでしょう。
しかしこう書くと、「使える範囲が限定されるとなると、なんだかあまりアリガタミがなさそうだな…」と思った方、多いのではないでしょうか。もちろんそんなことはありません。この分析はダイレクトに問題の核心に導いてくれる方法です。最初から背伸びして高度な原因分析手法にはまり込んでしまったり、場当たり的に原因を探ろうとしたりすると、挫折する可能性が無きにしも非ず。なぜなぜ分析を用いて原因の糸をたぐっていけば、比較的すんなりと根本原因にたどり着くことができるかもしれませんよ。
■こんな手順で進めます
では、なぜなぜ分析はどのような手順で進めればよいのでしょうか。次の①~⑤で簡潔に説明しましょう。
①問題解決メンバーを募る
問題を解決するには一人では無力です。なるべく目下の問題に精通したメンバー、もしくは問題意識を共有するメンバーに集まってもらいましょう。
②問題点を明確にする
目下の問題は何であるかをホワイトボードなどに書き出して明確にし、全員で確認します。A君の場合、「X商品の売上が伸びない」がこれに当たります。
③その問題に対し「なぜそうなるのか?」を問う
メンバー全員で「X商品の売上が伸びないのはなぜか?」を問います。このとき憶測や空想で回答を編み出さないこと。事実に即した説明可能な事柄を述べます。よって、なるべく客観的な資料などを持ちよって検討することをお勧めします。
④前の答えに対し「なぜ?」を反復する
③の質問に答えが出たら、その答えに対してさらに何度か「なぜ?」を反復します。「なぜX商品の売上が伸びないのか?」→「X商品のことを知らない人が多いから」→「なぜ知らない人が多いのか?」→…といった具合いに。
⑤「なぜ?」を問う必要がなくなったら対策を導く
なぜなぜ分析で「なぜ?」を5回反復するというのは、あくまで経験則です。問題の性質によっては5回よりも少ない、または多い回数で最後の答えに達する場合もあるでしょう。いずれにしても「これ以上問うても答えようがない」というところまで来たら、そこで終わりとし、最後の答え(根本原因)を解決するための対策を導きます。
次回は「SMARTによる目標設定」についてのお話です。
(了)
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