インタビュー 片田敏孝・東京大学大学院情報学環特任教授

新型コロナウイルスへの警戒が続く中、今年も大きな自然災害が日本を襲っている。7月の豪雨は、熊本県南部を中心に九州各地で水害をもたらし、球磨川水系では多くの人命を奪った。一方で、早めの避難など国民の防災意識も変わってきたように思える。だが、片田敏孝・東京大学大学院情報学環特任教授は「国民の『おびえ』のレベルが上がっているだけではないか」と指摘。その上で、このコロナ禍での気づきを、これからの防災や危機管理に生かしていくことが重要だと強調する。

画像を拡大 片田敏孝氏

片田敏孝氏
専門は災害情報学・災害社会工学。昭和35年岐阜県生まれ。東京大学大学院情報学環特任教授、日本災害情報学会会長。平成2年豊橋技術科学大学大学院博士課程修了。群馬大学工学部建設工学科助教授、京都大学防災研究所客員助教授、米国ワシントン大学客員研究員などを経て、平成17年群馬大学工学部建設工学科教授。内閣府中央防災会議「災害時の避難に関する専門調査会」委員、文部科学省「科学技術・学術審議会」専門委員、総務省消防庁「消防審議会」委員、国土交通省「水害ハザードマップ検討委員会」委員長、気象庁「気象業務の評価に関する懇談会」委員などを歴任。災害情報伝達、防災教育、避難誘導策の在り方などについて研究するとともに、地域での防災活動を全国各地で展開している。

本記事は「月刊BCPリーダーズ」10月号に掲載したものです。月刊BCPリーダーズはリスク対策.PRO会員がフリーで閲覧できるほか、PRO会員以外の方も号ごとにダウンロードが可能です。
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反省と対策強化を繰り返す日本の防災
災害に「抗う」という前提を変える

昨年の台風19号、千曲川の決壊による浸水被害・長野市(出典:国土地理院)

――ここ数年、大きな自然災害が頻発し、それに伴って、災害への備えや避難に対する国民の意識も向上しているように見えます。例えば、台風が近づくと早目に避難所に行くといった状況も見えるようになりました。片田先生は現状をどう捉えていますか。
確かに東日本大震災以降、災害が続く中で、国民の災害意識や対応行動のレベルが上がっているように見えます。ですが、果たしてそうでしょうか。私は「おびえ」のレベルが上がっているだけではないかと思っています。

私は、内閣府の「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」の第1回(平成30年10月)の冒頭で次のように申し上げました。

「私は20年前にもこういった会議に出させていただき、委員の全てが、その事態に当たってどうすべきなのか、課題を抽出して反省し、それを検討や対策に生かすという真摯(しんし)な議論をしました。 その翌年にもまた同じような水害が発生し、また反省した。こうしたことをやり続けて20年。今回もまた反省するのでしょうか。また対策を強化するのでしょうか。このような議論をしても、10年後にもまた反省会をやっているように思う」と。