2014/01/25
誌面情報 vol41
チャイナリスクにも対応
「あと施工アンカー」と呼ばれる建築構造物の取り付け部品や、パチンコ玉など鋼球の製造販売を手掛けるサンライズ工業は、東日本大震災を機にBCPへの取り組みを始めた。
主力製品の「あと施工アンカーCタイプ」は、全国の2割ほどのシェアを誇る。手すりや建築金物の取り付け、機械設備の取り付けに使われている製品だ。
同社は鳥取県の工場に加え中国の唐山市に関連会社を持つ。BCP策定のきっかけは東日本大震災。仙台市のパチンコ玉素材メーカーから納入が途絶え、顧客への商品供給が遅れた。その後は国内の取引先を中心に、BCPの策定に関する問い合わせや、非常時の対応に関する問い合わせが増え、BCPに取り組むことを決めた。
一方、会社を取り巻くリスクは震災以外にも顕在化している。例えば中国における政情不安や、従業員のストライキ問題、為替リスクなど。
中国に進出したのは1999年。安い人件費を求めて進出したが、この10数年で人件費は3倍に高騰した。為替リスクも悩みの種だ。「もともと1ドル80円ぐらいでアンカー1本を買えていたのが今は102円、103円ぐらい」。さらに、2012年12月に起きた笹子のトンネル事故をきっかけに、建築用の材料については、国内製品が求められる傾向が高まっているという。
パチンコ玉の生産については、業界全体が右肩下がりにあるため投資が難しい。数年前までパチンコ玉のメーカーは国内で5~6社あったが今は同社を含め2社だけ。倒産した他社の生産まですべてカバーできれば受注を大幅に増やせたが、国内で一貫生産を行っているため手が回せなかったと代表取締役常務の仁保晶議氏は悔やむ。
同社では、BCPの構築とともに、こうした様々なリスクについても併せて対策をしていくことを目指している。

具体的には、仕入先の分散や、現有設備の再配置。「BCPを策定する中で、1社からの仕入れに依存している製品が多いことが判明した」と仁保氏は振り返る。
中小企業は仕入れ量が少ないので複数購買体制を展開することは現実的に難しい。しかし、既存の取引先に相談しながら探してみると、他県などにも様々な企業があることが分かったという。「技術力を高めながらよりよい製品を作っていくことが、結果的にBCPの実効性の向上にもつながる」(同)。
中国での生産体制については、国内需要の今後の見通し、コスト、顧客からの信用などを総合的に考慮して、設備の再配備を考えるとする。「市場の構造変化を見ながら、BCPを構築していくことが必要」と仁保氏は語る。
BCPは平時の経営に役立つ
コンサルティングとして、鳥取県内のBCP策定を支援しているセコム山陰プロジェクト推進室長の中谷典正氏は、「災害時のためだけにBCPをつくるのではなく、日常的な経営に役立てる視点が大切」と話す。「BCPは作るのもマンパワーが必要だし、維持するのも大変。それが緊急事態のためだけと考えれば、なかなか取り組むことができないし、実際に災害に対して本当に強くなったのか検証も難しい。それならば平常時から、ブランド力を高める、重要な資源を明確にして経営のスリム化を図る、仕入先を多くして技術力を高めるなど、平時の経営にBCPを役立てることを考え、確実に組織の文化に定着させるべきでは」と提案する。
誌面情報 vol41の他の記事
おすすめ記事
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを事業化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方