2013/07/25
誌面情報 vol38
1つのシステムだけに依存しない
東日本大震災以降、自社の安否確認システムを見直したり、衛星携帯電話を購入するなど、災害時における安否確認の確実性を高めようとする動きが目立つ。一方、東京都も今年4月に施行された帰宅困難者対策条例で、事業者に対し安否情報の確認手段の従業員への周知を努力義務として課すなど、安否確認の対策に乗り出している。安否確認の導入、見直しにおけるポイントをまとめた。
BCPにおける安否確認の目的

安否確認と一言で言っても、経営陣や従業員の安否確認、従業員の家族の安否確認、あるいは、支店や取引先の安否確認など、その範囲は多岐にわたる。BCP(事業継続計画)における安否確認の目的は、事業を継続させる上で、まず災害によってもたらされた自社の状況を明確にすることが挙げられる。
社員は全員無事なのか、社員の家族は無事で安心して勤務にあたれるのか、支店は無事か、取引先は…。これらの安否が確認できなければ、被災状況を正しく把握することができず、救援のために経営資源を投じるべきか否かの判断が困難となり、結果として意思決定が遅れて復旧までの時間も余計にかかることになる。

一方、こうした目的を理解し、安否確認の体制を整えていたとしても、それがスムーズに行えるかどうかは別問題だ。
矢野経済研究所が、東日本大震災直後の2011年5月に行った売上高1億円以上のユーザ企業に対するアンケート結果によれば、震災前に既に安否確認システムを導入していた企業のうち、24.6%が「大震災時にシステムが正しく機能しなかった」と回答した。その理由としてもっとも多く挙げられたのは、「携帯電話回線の不通によりシステムが利用できなかった」である。安否確認システムの多くは、携帯電話や携帯メールで安否を回答する仕組みになっているが、震災後、一時は携帯電話がほぼ全面不通となり、多くの携帯メールが不着となるなど、システムが正常に機能しなかった。
一方、従業員の対応も、家族の安否が確認できないため帰宅を急いだり、会社からの安否確認の連絡がないため、何日経っても会社に報告せず、会社が週明け後、何日間も社員の安否が確認できなかった事例も多数あった。
当然、固定電話も回線が混雑し、さらに広域な停電により被災地ではインターネットも使えない状況になり、本社がいつまでも支店や取引先などの状況がつかめない状態が続き、多くの会社や自治体が災害対応の出足をくじかれた。
誌面情報 vol38の他の記事
- 特集1 安否確認の手法大検証
- 知っておきたい安否確認のポイント
- 40万人に対応する安否確認 イオン
- 社員が自主的に連絡する NEC
- 震災後需要が伸びる衛星携帯電話
おすすめ記事
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
-
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
-
-
-
防災教育を劇的に変える5つのポイント教え方には法則がある!
緊急時に的確な判断と行動を可能にするため、不可欠なのが教育と研修だ。リスクマネジメントやBCMに関連する基本的な知識やスキル習得のために、一般的な授業形式からグループ討議、シミュレーション訓練など多種多様な方法が導入されている。しかし、本当に効果的な「学び」はどのように組み立てるべきなのか。教育工学を専門とする東北学院大学教授の稲垣忠氏に聞いた。
2025/04/10
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方