2016/12/05
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
【特集1】 奏功した交通施策
オリンピックの危機管理と言えば、とかくテロ攻撃のような多くの負傷者が出るような脅威ばかりを想定しがちだが、ブラジルが特に早い段階から対策に力を入れてきたのが交通対策だった。リオでは交通渋滞が日常茶飯事で、2007年に開催されたパンアメリカン競技大会では、街中は深刻な交通渋滞に見舞われ、2013年のFIFAコンフェデレーションズカップや2014年のワールドカップでも、交通渋滞の対策が十分進んでいないことが指摘されていた。しかし、今回のオリンピックでは、ビーチバレー大会の会場となったコパカバーナとオリンピックパークを結ぶ地下鉄4号線の開通をはじめ、バス高速輸送機関「BRT」や路面電車「VLT」の開通などにより、市の交通事情は一変し、大きな混雑はほとんど見られなかったという。
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期間中の交通規制などソフト対策も奏功した。
リオ2016組織委員会セキュリティ局ジェネラル・マネジャーのヘンリキ・ボリ氏によると、大会期間中は、選手や選手団、メディア関係社、大会運営者など大会関係者が優先的に通行できるように、専用、優先、共用の3区分による交通規制が行われ、一般車両が大会関係者専用のレーンを走ることがないよう、警察と軍が終日、取り締まったという。大会関係者の車両についても、選手・選手団については最優先とすることが決められ、青色のTA(TransportationforAthlete)というステッカーが貼られ、メディア関係者には緑色のTM(TransportationforMedia)というステッカー、大会運営関係者はオレンジ色のTO(TransportationforOperation)というステッカーが貼られ、簡易に識別できるようにした。
さらに、選手・選手団のバスについては、テロ対策などのスクリーニングを受けずに各会場に入れるようにすることで、交通規制によって競技に支障を来すことがないようにした。「選手のバスは常に会場から会場へと動いているため安全と判断し、選手村に帰る際を除いては、スクリーニングを行わないことにした」(ボリ氏)。
ボリ氏は「市民の感情としては、2013年のコンフェデレーションズカップや、翌年のワールドカップに比べて、オリンピックゲームはとても良くなったと思われているはずだ」と胸を張る。
パラリンピックが盲点になる!?
会場のセキュリティについても、テロや暴動だけを想定するのではなく、火災や緊急時における選手や観客の避難計画など、まずは基本的な部分に見落としがないように緻密に準備を進めたとボリ氏は説明する。その上で各会場の脆弱性を1つずつつぶしていく作業を行った。
「オリンピック、パラリンピックの警備計画を立てるにあたっては、まず、リスク分析の結果を文書としてまとめる必要があった。会場に関する脆弱性の報告書というものを作り、ブラジル情報庁(ABIN)を通じて、各省庁・関係機関から内容を精査してもらい、その脆弱性を克服できるような計画を立てていくことが求めれた」(同)。
リスク分析の文章は、オリンピック・パラリンピックそれぞれについて、会場、競技場ごとに記載する必要があり、複数の競技が行われる会場もあるため、それぞれの競技についての脆弱性や対処策まで考慮したという。
当然、オリンピックとパラリンピックでは、同じ施設を使った競技でも注意すべき点が異なってくる。オリンピックの参加選手は、215カ国から1万1303人。これに対して、パラリンピックは160カ国で参加選手数は約4350人と少ないが、家族やサポーター、支援者を含めると、選手関係者の数はオリンピックを大幅に上回ったという。「我々はパラリンピックの対策がとても難しいことに気付いた」(同)。
例えば、選手村については、パラリンピックでは31棟のマンションに約3600戸の共同住宅が備えられ、各棟に100人以上が入居したが、目が不自由な人もいれば、耳が不自由な人、手足に障がいを持つ人もいて、それぞれに配慮した避難計画にする必要があった。「どうすればリスクを軽減できるのか、かなり多くの時間を割いて検討をした」とボリ氏は振り返る。
さらに4地区34の競技会場についても避難計画を作成する必要があった。
近年では視聴覚障がい者が避難しやすい光点滅走行式避難誘導システムなども開発されているが、十分な予算が割けない中で、旗や笛を使って避難誘導する方法が採用された。会場の表側は観客しかいないため、避難計画の策定はそれほど難しくないが、会場の裏側は、選手の送迎場があったり、トレーニングスペースがあったり、さらに、さまざまな資機材が置かれ、大会の運営に関わるスタッフも多数働いているため、障がい者が十分なゆとりをもって通れる避難経路を確保することは難しかったとする。
避難計画の文書としては、オリンピック用とパラリンピック用の2つを作成したが、各会場・棟ごとに、さまざまな障がい者を考慮した対応を盛り込んだため、膨大な量に及んだ。
完成した計画は、各選手団の代表に説明をすることで選手や関係者に周知を図ったが、国によっては、警報が鳴ったらすぐに逃げる国と、とどまって安全を確認する国など、考え方もまちまちで、説明の後に喧嘩になることもあったとボリ氏は明かす。
実は、オリンピック開催中、選手村では85回もの警報器の誤報があった。その都度、すべての参加チームの安全確認を行うことは大変で、パラリンピックでは計画を見直し、選手村の中に大型の消防車やはしご車を常駐させ、消防署と同じような機能を持たせ、さらに各棟に消防団も設置した。
このほかにも、見落としがちなリスクはあった。例えば、警察のヘリコプターが、選手村の上空を飛ぶことが、選手の睡眠を妨害するとして、見直しを迫られた。ドローンについても心配されたが、事前に注意を呼び掛けたことで大会期間中に問題が顕在化することはなかったという。
また、女子水泳競技では、アメリカの選手が会場を間違え予定通り競技を行えないような問題も発生したそうだが、プログラムを入れ替えるなど柔軟な対応により、大きな問題にはならなかったとする。オリンピックともなれば、チケットの購入者、メディア、スポンサーへの対応など、競技のプログラムを入れ替えることは簡単ではないが、「例えばチケット読み取りマシーンが壊れたような場合はプログラムを入れ替えることなども想定し、緊急対応プランを考えていたため、これを応用して対応することができた」とボリ氏は話している。
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