4.公的生活再建支援情報に関する普遍的なニーズ

「12.公的支援・行政認定等」(15.3%)が多い【図2】。内容は、報道などで公表されている事例や【表】から推測するに「罹災証明書」と呼ばれる自治体に発行義務がある住居被害を認定する証明書に関する問い合わせや、「被災者生活再建支援金」の支給に関する問い合わせがあるようだ。「罹災証明書」は、住居を「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊(半壊未満)」と被害認定するものであるが、その結果によって、給付支援や支払猶予・免除措置の有無が左右されたりする。罹災証明書の認定基準や入手できる時期などの問い合わせが弁護士に殺到していたと考えるのが自然である。

法制度に基づいて行政が実施する被災者への公的支援(特に行政給付支援)は、はじめて災害を経験する者にとっては、行政機関も住民も制度の存在自体を知らないことが多い。行政からスムーズに情報が提供されるとも限らず、また、避難所の壁新聞やニュースを聞いても、被災者自らその情報を正確にキャッチできないことが通常である。弁護士による法律相談の本質は、必要な者に対して、必要な制度情報を伝達することにこそあるといえる。

このような相談傾向は、過去においては、東日本大震災の被災地では当然のこと、局地的な大災害として記憶に新しい「平成26年(2014年)8月広島市豪雨災害」(広島土砂災害)でも顕著に見られた。【図3】は、広島土砂災害後に広島弁護士会が実施した250件の無料法律相談内容をまとめたものである。「12 震災関連法令」(熊本地震における「12 公的支援・行政認定等」と同じ類型)が「22.4%」と高い割合であることがわかる。その「12 震災関連法令」なかで、「罹災証明書」に関する相談は「30.4%」を占めていた。いずれの大災害にあっても、生活再建に関する公的支援の情報こそが、被災者の重要なリーガル・ニーズとして浮かび上がることが確認されたと考えられる。

5.おわりに〜更なるデータ分析の必要性

本稿で紹介した「熊本地震無料法律相談データ分析結果(第1次分析)」は、あくまで速報版と推測される。今後、さらにデータを収集・分析することで、市町村単位での特性、時間経過によるリーガル・ニーズの変遷なども明らかになるはずである。これは、熊本地震の復興支援に直接役立つ情報となるばかりでなく、既存の法制度の不備を証明する『立法事実』の発見につながると考えられる。例えば、「被災者生活再建支援法」に基づく支援金は、「全壊」「大規模半壊」「半壊住宅や敷地被害がある場合のやむを得ない解体」などの場合にしか支給されない。ところが、熊本地震では「半壊未満」の住宅被害が圧倒的に多く、そのなかでも、通常どおり居住し続けるには危険だったり、度重なる余震によって精神的な不安があり、実際は住めない住宅もある。これらに対応するには、従前の支援金の支給要件を変えていくことも検討すべきである。仮に一定程度の予算措置は必要であるとしても、被災地全体の復旧・復興が加速することによるメリットも大きいと思われる。紙面の都合上、本稿では詳細な政策提言については記述できなかったが、分析の更なる進展が、新たな政策や法改正の根拠になる可能性が高いことを指摘しつつ、分析結果の続報を期待したい。


参考文献
・岡本正『災害復興法学』(2014年慶應義塾大学出版会)
・岡本正「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の実務対応~
東日本大震災の教訓から実践的活用を目指して」(JA金融法務2016年7月1日
号№547)
・仙台弁護士会紛争解決支援センター『3.11と弁護士―震災ADRの900日』
(2013年きんざい)
・日本弁護士連合会「東日本大震災無料法律相談情報分析結果(第5次分析)」
(2012年10月)(※図2を引用)
・日本弁護士連合会「熊本地震無料法律相談データ分析結果(第一次分析)」
(2016年8月)
・広島弁護士会「平成26年(2014年)8月広島市豪雨災害無料法律相談情報分析
結果(第1次分析)」(2015年8月18日)(※図3を引用)
・非常災害対策本部「平成28年(2016年)熊本県熊本地方を震源とする地震に係
る被害状況等について」(平成28年8月1日12時00分現在)
総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査」

(了)