緊急事態における判断力

追いかけてきた犬が狂犬病にかかっていたのかどうかは見た目ではわかりませんでしたが、インドの犬は狂犬病の罹患率が多いとの情報が頭にあったのでとにかく逃げました。でも、もしバイクのおじさんが完ぺきに悪い感じの人に見えていたら、私は瞬時にバイクに乗れたでしょうか?もしかしたら、犬が狂犬病ではないかもしれないという希望的観測のもと、バイクには乗らず犬にかまれる方を選んだかもしれません。

可能性は4通り、私はおじさんを信用してバイクに乗り、結果、犬からは逃げることに成功しました。私を助けにきてくれたおじさんは普通の良いインド人で、彼のおかげで助かったのですが、見ず知らずの人のバイクに乗ることは通常ありえません。もし、良いおじさんではなかったら、そのままバイクで連れ去られるという可能性もありましたよね。

そのエリアの安全度は、自分で調査し、自身の経験と知識を総動員して判断をくだすことで初めて量れるのです。セキュリティ担当としては情けないのですが、現地のドライバーの話や、車を降りた現場の雰囲気によって「安全そうだ」と主観的に判断した結果、こうした事態を招くことになりました。犬は私を見てダッシュしてきたので、現地の人々にとっては平気な場所が外国人である私にとっても平気な場所であるとは限らないということを学びました。そして自分自身が巻き込まれた緊急事態においては、瞬時に適切に判断をすることがどれほど難しいかということを経験しました。今こうして生きているので、その時の判断はベストだったのだと思います。いえ、今回もラッキーだったという方が適切でしょう。

ビッグイベントには様々な想定外がつきものです。今年、来年と日本では多くのビッグイベントが続きます。想定外の事態に自分が巻き込まれたら…と、日々考え、瞬時に最善策を導き出すための訓練が自分の身を守るために重要なのです。

この一件以降、私は治安情報や安全対策については自身の目と耳と足で確認をするくせがつきました。読者の皆さまも、セキュリティに関してはうわさや人づて、メディアやネット任せにしないようにしてください。自分の身を守ることができるのは自分だけなのですから。

(了)