薩摩閥三島通庸、土木建築の成果と民衆弾圧
<土木県令>と<鬼県令>の真逆な顔の辣腕政治家

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2019/04/01
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
明治期の政治家三島通庸(みちつね、1835~88)ほど、県令(現知事)として勤務した東北地方で評価の極端に分かれる人物も少ない。辣腕(らつわん)政治家三島は初任地山形県では<土木県令>として「後進県」の近代化に尽力し、帝都に通じる道路やトンネルをつくり、同時に県庁など公共施設の近代建築化に果敢に挑んだ。その目を見張る土木建築事業の成果は、恩恵として、また遺産として同県人に高く評価されている。ところが山形県の後に赴任した福島・栃木両県では評価は逆転し、自由民権運動を弾圧する憎むべき<鬼県令>として語り継がれている。悪評ばかりとも言える。
明治14年(1881)、明治天皇は、天皇行幸史上最も長い国内視察の旅に出られた。7月31日に皇居を出発し、東北・北海道を御巡幸の後に、10月3日新たに開削された栗子山隧道(くりこやまずいどう、トンネル)を御通りになることが決定した。山岳地に開通した同隧道は当時東日本で最長であった。県令三島はこの記念すべき日に合わせて竣工式を挙行した。隧道の中の左右の壁に洋風ランプを取りつけ、隧道入口には大きな反射鏡を置いて内部を明るく照らした。天皇が御着きになる時には祝砲に変えて花火を打ち上げることにし、30発の花火を行在所(あんざいしょ)の西側に用意した。行在所には玉座の次に故大久保利通と名君であった米沢藩主・上杉鷹山の肖像画をかかげ、中央に栗子山隧道の絵画を飾った。三島の依頼を受け当代一流洋画家・高橋由一が筆を執った油絵の大作である。
午前10時、天皇の馬車が行在所に御着きになった。県令は「本日、栗子山隧道が落成し、庶人通行の開業式典に天皇陛下の御来駕があったことはこの上ない栄誉なことであります」と言上した。県令三島は記念の品に由一が描いた栗子山隧道西口の図を献上すると、天皇はことのほか喜ばれた。歓談の後、正午になって天皇の一行は出発した。三島県令は隧道東口まで先導し、西口に帰って来た。翌日、開業式に参加した全員に向かって県令は挨拶をした。
「人は知見を開くにあり、知見を開けて才智具(そな)わる。国は富饒を致すにあり、富饒致して兵力強し知見は交際を広くし富饒は産業を盛んにするにあり。此の2つのものは他になし、人相い往来し物相い流通するにあるのみ、山形の県たる山河四塞往来を便にして流通を資(たす)くるは牧民官の急務深く之を講ぜずんばあるべからざるなり」。
<土木県令>の最良の日であった。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方