2025/01/03
防災・危機管理ニュース
昨年1月の能登半島地震では、石川県が各市町と道路寸断や要救助者などの被害情報を共有するシステムがうまく機能せず、全容把握まで数日かかった。こうしたシステムは東日本大震災を機に多くの自治体で導入が進んだが、大規模災害では活用しにくい実態が明らかになったと専門家は指摘する。
政府の災害時情報集約支援チーム「ISUT(アイサット)」の一員として活動した防災科学技術研究所(茨城県つくば市)の伊勢正・研究統括は「災害対応に追われる中、システム入力が職員の大きな負担になっていることが原因」と話す。
現状では、自衛隊や消防などの実動機関から電話やファクスで届いた被害情報を市町村の職員が都道府県のシステムに入力することになっている。しかし、避難所の運営や電話対応、被害状況の確認など業務が山積する現場は「入力どころではない」と伊勢氏は言う。
伊勢氏は2019年、西日本豪雨で被災した自治体の職員を対象に調査を実施。その結果、防災担当者以外の職員が操作できず、入力が間に合わないことや、研修が1日程度しかないといった理由でシステムがうまく機能しなかったことが明らかになった。大規模災害の発生頻度が低いため、システムの改善が進まないことも一因だとした。
そこで伊勢氏の研究チームは23年から、実動機関が直接現場から入力できる新たなシステムの開発に着手。能登半島地震が発生したため急きょ自衛隊に試験運用させたところ、奥能登へのルートなどの情報が入ってきたという。伊勢氏は「実動機関の情報をすぐ集められたことが、これまでの災害より改善できた点だ」と一定の手応えを感じている。
ただ、今回は消防や海上保安庁には提供できなかったため、能登半島全体のルート開拓には時間がかかった。「もし円滑に情報共有できていれば、救える命が増えたかもしれない」と悔やむ。
その上で「自治体は住民に向き合うことが大切な仕事。職員頼みの入力には限界があり、今後は実動機関を交えた情報共有の枠組みを構築する必要がある」と力を込めた。
〔写真説明〕被災地の情報共有システムの課題について説明する防災科学技術研究所の伊勢正研究統括=2024年12月9日、茨城県つくば市
(ニュース提供元:時事通信社)

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