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前回紹介した農業や畜産業と同じように、気候変動の影響が最も早く出てくる分野が漁業と林業である。熱波や水害の直撃を受ける農作物のようにストレートな災害事象として現れるわけではないが、すでに水面下でそのリスクは徐々に明確な形をとりつつある。

水温上昇と酸性化

気候変動が漁業に影響を与える主な要因は海洋の「水温上昇」と「酸性化」であり、2030年にはそれがさらに進む。温暖化は大気だけでなく海水温も上昇させる。本来はその温度上昇を緩和して海洋循環のバランスをとる働きをする極地の氷の融解も止まらない。海洋の温度が上昇すれば魚の生息環境に影響を与えることは自明の理である。一方、大気中の二酸化炭素が大量に海水に溶け込むことで、もともとアルカリ性である海の水質が酸性に近づき、海の生態系全般に影響を与える。

海の変化が食料の安全保障を脅かす

北海道でブリの漁獲量が急増している。海温上昇の影響か(イメージ/Adobe Stock)

漁業への影響を具体的に見てみよう。まず地球温暖化の進行で海水温の上昇が進み、魚の分布が変化し、一部の種はより寒冷な水域へ移動する。これにより従来の漁獲地域での漁獲量の減少と入れ替わるように暖かい海の魚が増えている傾向は、本連載第一部の「第5話:毎日の食卓と水にも温暖化の影響」で見たとおりである。

また、海水の酸性化は、サンゴやカキ・ホタテなどの貝類、エビ・カニなどの甲殻類といった炭酸カルシウムで殻をつくる生き物たちの成長や繁殖を妨げ、寿命にも影響を及ぼすだけでなく、海の食物連鎖を断ち切る原因にもなる。

こうした海洋環境の変化が、魚の繁殖サイクルや生息地を変え漁獲量の変動を引き起こす。漁業従事者は新しい漁場の開拓や養殖・漁獲方法の変更を余儀なくされる。海洋の温暖化と酸性化による影響が進むと、水産物の品質や量・価格も変動し、国際的な食糧需給が不安定になることが考えられる。

食糧の安全保障上、漁業が果たす役割はきわめて重要だが、これに対処するための国際協力や持続可能な漁業管理はできるのだろうか。

魚種や漁獲量の変化は、漁業に従事する人口にも影響を及ぼす。新しい漁獲地域や環境への適応には、漁業の管理者や従業員に対する教育やスキル向上の訓練が必要となる。また、これまでなじみのなかった魚介類や海藻類が増えても食に適していれば問題ないが、逆の場合は漁業に従事する人々の収入や雇用にも影響が出る。ひいては漁業の廃業を余儀なくされる事業者が増える可能性も否定できない。