2024/06/18
インタビュー
富士山噴火における首都圏企業の対応
死者・行方不明者63人を出した御嶽山の噴火から9月27日で10年を迎える。令和6年防災白書では、特集1として火山噴火への備えを掲載し、制度の改正や各地の火山防災の取り組みを紹介した。一方、降灰により首都圏に大きな被害をもたらす可能性が指摘される富士山の噴火については、まだまだ対策が十分とは言えない状況で、具体的にどう対策を進めていけばいいのか悩みを抱える企業も少なくない。山梨県富士山科学研究所所長で東京大学名誉教授の藤井敏嗣氏に、首都圏における企業の対策のあり方を聞いた。
Q.首都圏の企業からは、具体的にどう備えてよいかわからないという声を聞きます。どのように対策を考えていくべきでしょうか。
首都圏は、富士山の噴火警戒区域に入っていないこともあって、自分たちだけで対策を進めていくのが難しい面もある。そもそも火山灰に対しては、噴火警戒レベルの設定がされていないので、情報の入手も難しいことが考えられる。ただし、実際に噴火警戒レベルが上がるようなことになれば、NHKはじめ各報道機関が大きく報じるので情報はたちまち全国に伝わるはずだ。その時、どういう行動をとるべきか考えておく必要がある。
Q.具体的にどのような備えをすべきでしょうか。
富士山の場合、降灰を伴うような爆発的な噴火になるのか、溶岩流が流れ出すような噴火になるのかは現段階で予測がつかない。溶岩流が流れ出すタイプの噴火なら、都内への影響はほとんどないことも考えられる。もちろん、溶岩流が大量に流れ出し、南側の東名高速にまで到達するようなことがあれば物流などの影響はあるかもしれないが、都内が大混乱するような事態は考えにくい。
しかし、300年前の宝永の噴火と同じような爆発的な噴火が起きれば、東京に大量の灰を降らせるような事態が起こりうる。そのような事態になるか判明するのは、富士山が噴火してから最短で30分後ぐらいだ。
風向きなども影響してくるが、噴火開始してから30分以上、噴煙が上空に向かって上がり続けている状態ならば、東京が影響を受けることは間違いない。もし、そのような噴火になれば、1~2時間で、首都圏全体の鉄道が止まってしまう。昼間に噴火すれば、会社に出社している人たちは帰れなくなり、逆に夜間に発生すれば、多くの人が出勤できず、会社が社員を集められないという事態になってしまう。
そのような事態にどう対処するのかといえば、まずは、首都直下地震と同じように、社員を無理やり帰すのではなく、会社にとどめられるようにしておくということ。コンビニなどもすぐに食料品などは売り切れ、物流が止まってしまうため、商品の品切れ状態が続く。公共交通機関どころか道路も通れなくなるので徒歩で帰宅させることは極めて危険だ。また、灰により浄水場のろ過機能が低下し、飲み水に影響が出る。下水管が詰まり、下水道が使えなくなることも想定されている。さらに、送電線に積もった火山灰が碍子でショートを起こし停電が起きる可能性もある。
一方、窓を閉めておけば灰が建物の中に大量に入ってくるということはないと考えられるので、まずは防災の基本となる水や食料、非常用トイレといった基本的な備蓄を徹底し、停電なども想定した準備をしておくべきだ。
社員が参集できない際の対策も必要になる。交通渋滞が起き、車での出勤も難しいので、通信手段の確保などは考えておくことが必要だろう。医療機関の対策などについては今後、内閣府でも検討されていくと思うが、企業としてはまずは社員を守るということを徹底すべきだ。
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