2011/01/25
事例から学ぶ
■初動の重要性
2009年4月24日、金曜日の11時45分頃、東京都総合防災部情報統括課長の齋藤實氏は知人から1本の電話を受けた。内容は、「メキシコでインフルエンザが発生し、新型ではないか」というもの。齋藤氏は、直ちに、テレビニュースで事実関係を確認し、危機管理監、福祉保健局感染症対策課長、東京都健康安全研究センター所長らに連絡。この情報伝達により、都では、翌25日(土)から新型インフルエンザに関する相談窓口を設置するとともに、健康安全研究センターでは24時間体制のサーベイランス(監視体制)をスタートさせた。
「危機というのは初動が重要。そのためには第1報を誰から誰にどう伝えるのかを事前に決めておき、確実に伝えられる体制を整えておくことが不可欠。24日のうちに連絡することができたのは、たまたまタイミングが良かったからではない。関係者の連絡先は携帯電話にすべて登録している。どんな些細な事案でも、朝でも、夜中でも連絡するし、逆に、連絡が入ればどのような情報にも応じる。それが、危機管理担当としての心得」と、齋藤氏は語る。
■事前対策のポイント
都総合防災部は、危機事案発生時の初動から応急対策、広報対応、復旧に至るまで、すべての中心的役割(対策本部の事務局機能)を担う。危機事案が発生すると、指令官(危機管理監)をトップに指令室、総務班、情報統括班などの班組織が編成され、連携を取りながら対応にあたる。指令室の下には、庁内の各局や防災関係機関などとの調整を行う調整班、防災システムの運営・維持にあたる設備班、区市町村からの被害状況等を収集する情報班、そして広報班が設けられる(図表1)。各班とも、班長、副班長および主要メンバーが、直ちに都庁舎に参集できるよう、徒歩10分~30分圏内にある災害対策住宅で生活している。
広報班は、本部に集められた膨大な情報の中から、人的・物的被害や復旧状況などに関する事項をとりまとめ、プレス発表、報道機関などからの問い合わせ対応、さらに避難勧告に関する情報を放送局に要請するなど、市民生活に直接影響を及ぼす重要な役割を持つ。そこで「広報班活動マニュアル」をつくり、危機発生時の連絡網(担当者名、自宅・携帯電話、メールアドレスを記載)やプレス発表手順、さらに、誰が、いつまでに、何をするか、その際の留意点、ルールなどを分かりやすくまとめ、確実に対応できる体制を整えている(図表2:プレス発表手順、図表3:広報班の役割分担)。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/12/24
-
-
-
能登の二重被災が語る日本の災害脆弱性
2024 年、能登半島は二つの大きな災害に見舞われました。この多重被災から見えてくる脆弱性は、国全体の問題が能登という地域で集約的に顕在化したもの。能登の姿は明日の日本の姿にほかなりません。近い将来必ず起きる大規模災害への教訓として、能登で何が起きたのかを、金沢大学准教授の青木賢人氏に聞きました。
2024/12/22
-
製品供給は継続もたった1つの部品が再開を左右危機に備えたリソースの見直し
2022年3月、素材メーカーのADEKAの福島・相馬工場が震度6強の福島県沖地震で製品の生産が停止した。2009年からBCMに取り組んできた同工場にとって、東日本大震災以来の被害。復旧までの期間を左右したのは、たった1つの部品だ。BCPによる備えで製品の供給は滞りなく続けられたが、新たな課題も明らかになった。
2024/12/20
-
企業には社会的不正を発生させる素地がある
2024年も残すところわずか10日。産業界に最大の衝撃を与えたのはトヨタの認証不正だろう。グループ会社のダイハツや日野自動車での不正発覚に続き、後を追うかたちとなった。明治大学商学部専任講師の會澤綾子氏によれば企業不正には3つの特徴があり、その一つである社会的不正が注目されているという。會澤氏に、なぜ企業不正は止まないのかを聞いた。
2024/12/20
-
-
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方