2023/06/14
事例から学ぶ
台風災害などを受け空港全体のBCPを策定
成田空港を設置及び管理する成田国際空港株式会社(NAA:NARITA INTERNATIONAL AIRPORT CORPORATION)では、 地震や風水害などの大規模な自然災害や、ライフラインの長期途絶など空港機能が喪失されるような事態を想定しながらBCPの改善を続けている。2019年の台風15号の際には、アクセス機能の停止により多くの空港利用者が長時間、空港内に滞留することになり社会からの厳しい視線に晒された。2020年から猛威を振るった新型コロナウイルスでは、1日あたり約12万人もいた航空旅客数が一時期1万人にも届かないほどに激減した。いくつもの障壁を乗り越えて、あらゆる事故や災害に強い空港づくりが進められている。
同社の空港運用部門・オペレーションセンター・危機管理グループでアシスタントマネージャーを務める柳田烈氏は「空港の役割は変わってきています。航空機の離発着機能の維持だけではなく、利便性が求められる時代。災害時は安全の確保は当然として、安心も求められるようになっています」と話す。NAAのBCPは、大規模な自然災害が発生した際に空港関連事業者が連携し、迅速かつ的確な対応を行い「災害に強い成田国際空港」を形成することが目的だ。2019年10月に策定したこの成田国際空港BCPの想定被害は、①成田空港直下地震、②大雨や暴風などによる悪天候、③想定を超える災害による電力や通信などのインフラ停止による空港機能喪失の3つ。悪天候の場合は天候回復後5時間以内の運用再開、大規模地震の場合は地震発生後5時間以内の避難のための出発機及び救援機等の運用再開と24時間以内の定期民間航空機の運航再開を目指す。
変化する空港のBCPの歴史
BCPの取り組みは15年ほど前から始まった。2009年~2010年にかけて新型インフルエンザと大規模地震を想定したBCPを策定。その後、NAAグループが連携して一体となった対応を実現するために、2017年にNAAグループ大規模地震対策事業継続計画、2018年にNAAグループ新型インフルエンザ対策行動計画を構築してきた。
しかし2019年4月、国土交通省が設置した「全国主要空港における大規模自然災害対策に関する検討委員会」は、滞留者対応や空港全体としての機能保持や復旧を目指し、空港の設置管理者の統括マネジメントを前提としたBCPの再構築の必要性などを盛り込んだ「A2-BCP:Advanced Airport BCP」の策定を、成田国際空港を含む主要空港に求めることとした。2018年9月4日の台風21号では関西国際空港が、同月6日に発生した北海道の胆振東部地震では新千歳空港が被災し、空港へのアクセス停止による数多くの滞留者の発生やライフラインが停止した。これらの事態を受け、国が動き出したのだ。加えて、2019年9月、猛烈な風で送電線の鉄塔や電柱をなぎ倒し、首都圏を中心に最大約93万5000戸に停電をもたらした台風15号(房総半島台風)が成田国際空港を襲うと空港は機能不全に陥った。例えば、各鉄道会社が運行を停止し、高速道路も通行止めにされ空港は陸の孤島と化した。一方で、滑走路や駐機場など空港機能が確保されており、航空機の運航が可能であったため、旅客機の到着によりターミナルに人があふれ、約1万3000人が空港内で夜を明かすことになった。また、当日の交通アクセスの途絶により、多⾔語対応スタッフが出社できず、中国語、韓国語を話すスタッフが不⾜した結果、多⾔語対応が不⼗分となった。こうした課題を踏まえ、2019年10月に成田国際空港BCPを策定した。
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