2012/12/10
防災・危機管理ニュース
BCM World Conference and Exhibition 2012 参加報告

寄稿 インターリスク総研 上席コンサルタント 田代邦幸
イギリスに本拠地を置く国際的な非営利団体であるBCI(The Business Continuity Institute)は11月7、8日の2日間、世界中のBCM関係者が一同に会する毎年恒例のイベント「BCM World Conference and Exhibition」をロンドンで開催した。
イベントの概要
本イベントはロンドンの西側にあるOlympia Conference Centerで行われ、主催者によると、40を超える国々から1000人以上の参加者が集まった。

今年で4回目の開催となるが、今回は初めての試みとして、本イベントのためにスマートフォン用アプリ(iPhone、iPad、Android対応)が用意され、開催直前に公開された(写真1)。このアプリにはセッションプログラムや出展者リスト、会場レイアウト図などが表示される機能が含まれており、来場者はアプリを活用して、自分の参加したいセッションを見つけたり、各展示ブースの位置を確認するなど、便利な機能に満足した様子だった(もちろん紙のプログラムも配布されている)。
イベントは、単に情報収集の場ではなく、参加者のネットワークを拡げる機会ということを大きな目的に掲げている。そのため、アプリには有料カンファレンス参加者のデータベースが含まれており、イベントで出会った相手と後日連絡を取り合うのに便利なように、自分が選択した相手だけに、自分の連絡先等の詳細情報を開示できるようになっている。
セッションプログラム
カンファレンス・ルームで行なわれた有料のカンファレンスには2日間で21のセッションが用意されていた。プログラムは表1のとおり3つのStream(グループ)に分かれていた。これらは前年を踏襲した形で、Stream AはBS25999で採用されているBCMライフサイクルの各フェイズに沿ったテーマが並べられ、比較的基礎的な内容になっていたのに対して、Stream Bには実践的なテーマ、Stream Cにはより先進的なテーマが揃えられた。一方、展示会場に設けられた3つのセミナールームでも、表2のように多彩なプレゼンテーションが行われた(聴講無料)。
非常に多くのセッションがあったので全てを紹介することはできないが、筆者が参加したセッションの様子をいくつか報告したい。
■Supply Chain Resilience
1日目の9時半から展示会場で行われた「Supply Chain Resilience」では、BCI本部のLee Glendon氏から、2012年7~8月に実施された同タイトルのアンケート調査の結果概要が報告された。調査によると、回答した企業の約2割が、過去12ヶ月の間に100万ユーロ以上の損失をもたらすサプライチェーン途絶を経験しているとの事である。また、過去12ヶ月間に最もサプライチェーンに対して深刻な影響を与えた要因としては、ITや通信サービスの中断や悪天候、外部委託業者のサービス中断等が挙げられている。なお報告書はBCIのWebサイトから無償でダウンロードできる。
(http://www.thebci.org/index.php?option=com_content&view=article&id=121&Itemid=267)
■ORGANISATIONAL RESILIENCE
また1日目の10時40分からカンファレンス・ルームで行なわれた「ORGANISATIONAL RESILIENCE」というセッションでは、「なぜレジリエンスは事業継続の将来ではないのか?(Why resilience is not the future of Business Continuity)」という、やや挑戦的なタイトルのプレゼンテーションが行なわれた。「resilience」という用語は海外のBCM関係者の間でも近年よく使われるようになってきたが、その定義や概念が定まっていないためか、参加者の間で賛否両論の激しい議論が展開され、セッション終了後もいくつかのテーブルでは居残って議論が続いていた。
■BCM AND THE OLYMPICS – LESSONS LEARNED

2日目の午後2時らの「BCM AND THE OLYMPICS – LESSONS LEARNED」というセッションでは、リスク対策.com7月号でも取り上げられたロンドンオリンピックのBCMを振り返る内容で、これに関わった5名によるパネルディスカッションとなった(写真2)。パネラーの1人であるデロイトのRick Cudworth氏によれば、複数の組織が連携しながら運営していく巨大イベントにおける事業継続性を確保するために、BCMに関連する様々な机上演習を200回以上、シミュレーションを50回以上実施したとの事である。他にもBBCやBT(British Telecom)といった、オリンピックを支えた企業からパネラーを迎えて、参加者との間で活発な質疑応答があった。
また両日とも、昼休みの時間を使って3企業によるランチタイムセッションがあり、筆者は「LINK ASSOCIATES INTERNATIONAL」というコンサルティング会社のセッションに参加した。ここでは参加者が6つのグループに分かれて意見を出し合い、その場で演習シナリオを作るというワークショップを交えて、BCMにおける演習の企画、準備、実施、レビューの仕方等が解説された(写真3)。

なお筆者自身も展示会場におけるセミナーで、「Cooperative Approach to Improve Supply Chain Resilience」(サプライチェーンのレジリエンスを高めるための協調的アプローチ)および「Integration of BCMS with Other Management Systems」(BCMSと他のマネジメントシステムとの統合)という2つのプレゼンテーションを担当した。いずれも日本企業における実践事例を交えて説明したが、これらの分野に関心の高い参加者が各国から集まり、プレゼンテーションの後に活発な質疑応答や議論が続いた。
表1 カンファレンス・プログラム
9:00- 10:00 |
基調講演 Richard Reed, Vice President for Preparedness and Resilience Strategy, American Red Cross |
||
STREAM A BCM Lifecycle |
STREAM B BCM in Action |
STREAM C Thought Leadership |
|
10:40- 12:00 |
BCM POLICY AND PROGRAMME MANAGEMENT Dave Arnott MBCI Bridges Consulting Group Ltd |
APPLYING BCM TO HIGH VALUE FIXED ASSETS Susan O’Neil Australian National University David James-Brown FBCI JBT Global Business Continuity Consideration for Irreplaceable Assets Gareth Jones MBCI Crisisinterface Ltd BCM for high value fixed assets – the right tools to gain appropriate strategies? |
ORGANISATIONAL RESILIENCE Charley Newnham MBCI Bounce Forward Business Continuity and Continuum Resilience Why resilience is not the future of Business Continuity Dominic Cockram MBCI Steelhenge Consulting and BCI Partnership Resilience Working Group Culture, behaviour and disciplines – mapping the needs for a resilient organisation |
13:15- 15:35 |
EMBEDDING BCM IN THE ORGANISATION’S CULTURE Ian Charters FBCI Continuity Systems Ltd |
BCM STANDARDS – THE PATH TO CERTIFICATION Lynda Vongyer MBCI Implementing a standard in your organisation Dhiraj Lal MBCI CORE Certifying your BCM programme – an analysis across geographies |
FINDING BLACK SWANS THROUGH SCENARIO ANALYSIS AND WAR GAMING Emma Perry Crisis Solutions The Application of Scenario Analysis to business continuity and crisis management planning |
15:10- 16:30 |
UNDERSTANDING YOUR ORGANISATION Graham Vingoe FBCI T-Systems Ltd |
AWARENESS RAISING IN ORGANISATIONS Rob McAssey AMBCI adidas Group Laura Brattan Ear Productions adidas Group Case Study: On your Marks…Get set… Marcin Drachal AMBCI Human nature in implementing and maintaining BCM in large organizations |
MEASURING AND BENCHMARKING BCM PROGRAMMES Martin Caddick MBCI PwC and BCI Partnership Measurement Working Group What value are we trying to protect in BCM? |
表2 展示会場でのプレゼンテーション・プログラム
(1日目)
セミナールーム1 |
セミナールーム2 |
セミナールーム3 |
|
9:30- 10:00 |
Supply Chain Resilience Lee Glendon CBCI Business Continuity Institute |
||
10:45- 11:15 |
Towards BCM-Aware Media Abdullah Al-Hour MBCI Alinma Bank, Saudi Arabia |
Train to Gain Helen Molyneux MBCI Cambridge Risk Solutions Ltd |
PPA – Personal Password Algorithm Mark Mahoney MBCI Hewlett Packard |
13:20- 13:50 |
The Journey to BC25999 Certification – Two Steps Forward and One Steps Back John Lawson AMBCI NHS Blood and Transplant |
Continuology – The Science of Evolution in the Business World Jim Burtles Hon FBCI Total Continuity |
The BCM Parallel Organisation – Structure and Reporting Waleed Hammad PROXC Consulting Ltd |
15:15- 15:45 |
Supporting Crisis Management with a Practical Model Michael Crooymans Sogeti Nederland B.V. |
Succession Planning: How to Tell Your CEO to Step Down in a Crisis Geneviève Delage AMBCI Computershare |
Cooperative Approach to Improve Supply Chain Resilience 田代邦幸 MBCI (株)インターリスク総研 |
(2日目)
セミナールーム1 |
セミナールーム2 |
セミナールーム3 |
|
09.50- 10.20 |
The Roles of KPI and KRI in Business Continuity Paul Kirvan FBCI Paul Kirvan Associates |
Integration of BCMS with Other Management Systems 田代邦幸 MBCI (株)インターリスク総研 |
Assessing BCMS Effectiveness Through Risk Based Audit Practices William Byrne MBCI Heffernn Global Services Inc. |
11:40- 12:10 |
ISO 22301 – Review 6 Months on and the Transition From BS 25999-2 Tim McGarr BSI |
BC Test ... Failed Again ... Who's to Blame? Daren Howell SunGard Availability Services |
Developing and Implementing a BCM Response Eve-Marie Cornier CBCI Plante & Associates |
14:05- 14:35 |
Risks and Scenarios Versus Resources Rainer Hubert MBCI Rex Management Systems GmbH & Co.KG |
Executive Crisis Decision-Making Dennis Flynn Crisis Solutions |
Resilience – Meaning, Mapping and Metrics Robert Hall MBCI G4S Risk Management |
(両日とも、出展企業によるプレゼンテーションについては記載を省略した)
展示企業
展示ブースは前回から増え、41社からの出展があった。日本における同種のイベントと異なり、災害対策用品等の出展はほとんどなく、BCMに関する教育研修・トレーニングやBCM関連ソフトウェアの出展が多く見られた。このような傾向は例年通りであるが、今年は特にBCM関連ソフトウェアの新規出展が目立った。
表彰
1日目の夜には有名なマダム・タッソー蝋人形館に場所を移してディナーが催され(写真4)、この席上でBCMの普及啓発やBCIの運営など、様々な形で貢献した方々に対する表彰が行われた。受賞者のリストはBCIのWebサイトに掲載されている
(http://www.thebci.org/index.php?option=com_content&view=article&id=344&Itemid=4157)。ちなみに昨年は宮城県の(株)オイルプラントナトリが「The most effective recovery of the year」を受賞した。

感想と今後への期待
筆者は今回で4年連続の参加となったが、海外のBCM関係者に知り合いが増えるに従って、お互いに協力しながらこのイベントを成功させよう、という仲間意識が見えるようになってきた。本イベントの運営には、BCI本部の常勤スタッフや役員だけでなく、各社から参加しているメンバーがボランティアとして、セッションのコーディネートやプレゼンテーションのレビュー、当日の進行など、様々な形で貢献している。またBCMに関連する多くの企業がスポンサーとして参加しており、運営側にもスポンサーの貢献度合いを分かりやすく表現したり、様々な機会でスポンサーへの感謝を表明するなどの気遣いが感じられた。このように様々な立場から集まった人々によるシナジーが、このイベントの成功を支え、BCM関係者のネットワーク拡大に貢献していると言える。
さらに特筆すべきなのは、前回にも増して国際色豊かになってきたということである。本部の発表によると今年は40カ国以上から参加者が集まっており、また筆者自身も実際にポルトガル、ヨルダン、南アフリカ、ガーナ、スロベニアといった様々な国からの参加者と議論を通じて、BCIのネットワークの広がりを実感した。今回は日本からの参加者は3名のみであったが、今後は日本からも多くの関係者が参加し、海外の多様な考え方に接するとともに、日本のノウハウを共有していく機会が増えることを期待する。次回は2013年11月6、7日の二日間、同じ場所で開催される予定である。
- keyword
- 海外リスク
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。今回、石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
-
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
-
阪神・淡路大震災30年「いま」に寄り添う <西宮市>
西宮震災記念碑公園では、犠牲者追悼之碑を前に手を合わせる人たちが続いていた。ときおり吹き付ける風と小雨の合間に青空が顔をのぞかせる寒空であっても、名前の刻まれた銘板を訪ねる人は、途切れることはなかった。
2025/02/19
-
阪神・淡路大震災30年語り継ぐ あの日
阪神・淡路大震災で、神戸市に次ぐ甚大な被害が発生した西宮市。1146人が亡くなり、6386人が負傷。6万棟以上の家屋が倒壊した。現在、兵庫県消防設備保守協会で事務局次長を務める長畑武司氏は、西宮市消防局に務め北夙川消防分署で小隊長として消火活動や救助活動に奔走したひとり。当時の経験と自衛消防組織に求めるものを聞いた。
2025/02/19
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/02/18
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方