2023/03/13
インタビュー
小さな仕事の切り出しで地域に眠る人材を生かせ
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部
コミュニティデザイン学科 鍵屋一教授に聞く
コミュニティデザイン学科教授
鍵屋一氏 かぎや・はじめ
1983年早稲田大学法学部卒業後、板橋区役所入区。防災課長、板橋福祉事務所長、契約管財課長、地域振興課長、福祉部長、危機管理担当部長(兼務)、議会事務局長を経て2015年退職。同年京都大学博士(情報学)、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部コミュニティデザイン学科教授。「災害時要配慮者の避難支援検討会」など国の検討会委員や、福祉NPO理事等多数。著書に「図解よくわかる自治体の防災・危機管理のしくみ」(学陽書房)「福祉施設の事業継続計画(BCP)作成ガイド」(編著、東京都福祉保健財団)など。
日本企業が「ダイバーシティ&インクルージョン」に注目する背景には、少子高齢化による人口構成の変化、労働力確保の困難化、女性や高齢者・障がい者・外国人などの雇用に対する着眼がある。一方で地域社会も同様の課題に直面。コミュニティーを支える人材の不足から、福祉、防災をはじめさまざまな機能不全が顕在化している。両者が抱える課題の同時解決は図れるのか、どのようなイノベーションが求められるのか、福祉と防災に詳しい跡見学園女子大学の鍵屋一教授に聞いた。
高齢者・障がい者雇用のカギは仕事の標準化と切り出し
――高齢化と人手不足を背景に、企業では多様な働き方、地域社会では新たな福祉、防災、災害支援のあり方が模索されています。課題の同時解決にはどのような改革が必要ですか?
企業の人材戦略はこれまで、1から10までできる総合人材の育成・活用が基本でした。ルーティン業務から始め、次は細かいチーム作業、企画開発、そして歳をとるとマネジメントもできる、と。何でもやってもらうことを前提に採用し、最初はこれ、次はこれと、だんだんステップアップしていくスタイルだったわけです。
実はこれは、災害時の被災者支援に置き換えても同じです。やはり1から10までできる人材が求められてきました。ハザードを理解し、避難を呼びかけ、誘導して、避難所の運営を支える。そうした人材を支援者と位置づけ、すべて完結できる人を活用することが前提になってきたわけです。
しかし、少子高齢化による社会の変化に対し、そうしたスタイルが通用しなくなってきた。端的にいうと、人がいないのです。これからの時代は、企業としても地域コミュニティーとしても、全部は完結できないけれど1から4まではできる、あるいは1と8と7だけはできる、そうした人をいかに組み合わせて戦力にするかが重要になっています。
それは、ひとことでいえば仕事の標準化です。仕事を標準化して切り出していくことが、多様な人材を活用するうえでのカギ。例えば80歳以上で避難誘導や避難所運営はできなくても、各戸連絡ができる人は支援者になれるということです。
――仕事の標準化と切り出しが、まだうまくできていない、と。
いまのADL(日常生活動作)のレベルでいうと、高齢者でも要介護や要支援になっていない人は、一般の人と同じに何でもできるわけです。ならば、そうした人材に仕事を上手に切り出す。仕様をしっかり決めておけば、テレワークでできる仕事も多いでしょう。ただ、このときに考えないといけないのが連携です。
4までの仕事をしてもらったら、その先は企業がやらないといけない。被災者支援であれば、その先は自治体がやらないといけません。自治体がやれないなら、消防団がやる、あるいは福祉事業者がやる。そうした連携をしっかりとることが不可欠です。
仕事がしっかり切り出せれば、その先の連携はうまくいくはずです。これまでは、そうした取り組みが弱かった。1から10までできる人材の育成・活用を前提としてきたがゆえに、隙間の仕事については「阿吽の呼吸」で乗り越えよう、と。そうしたやり方が限界にきているということです。
――企業も地域も、遊休人材の活用によって解決できる問題は多そうです。
65歳で定年退職し、暇になっている人は地域に多くいます。お金ベースでいえば、例えば夫婦で月12万円くらい国民年金をもらっていたとしたら、プラス10 万円の仕事をすれば月22 万円、それなら地域で十分生活できます。ということは、2人とも元気なら1人5万円、つまり1日2500円で20日働ければいいわけです。
しかし1から10までの仕事の求人しかなければ、1日2500円の仕事を求めている人とマッチしません。いまは70 代でも元気ですから、例えばタクシーの事業許可を受けてUber に登録し、何人かお客さんを乗せればそのくらいは稼げる。かつ、地方では移動支援が深刻な課題です。小さな仕事を創出して地域活力を引き出せれば、さまざまな課題の同時解決につながると思います。
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